naggyfish
挑み果てた者供を拾う日々の営み(あるいは、アラフォーを自覚した誕生日、なんか書きたくなって始めたやつ)1章・公開分の綴じ合わせ
エレベータードアが開く。 田んぼで稲穂が揺れている。 胸に郷愁やめろ込み上げダメだ。 そう、ここはふるさと。 「うわぁ懐か」 「秒で呑まれんじゃねぇ!」 側頭部を殴打され視界が歪む。金属音の残響が響き、バズーカみたいな筒を振り上げたオッサンの髭顔ちがう黒光りする円筒ヘルメットが眼前にあった。 スモークミラーじみた偏光性質を備えた防護装備。俺の頭もそれで覆われている。 「いけるか? つっても出口消えてんなぁ」 「いけ……ます。オッサンより体力あるんで」 おう、と含
見送りは玄関までと決めている。 「さよならぁ」 流し目も甘い声にも無反応。斜めにしか日の射さないマンションの廊下は暗く湿った土管のよう。客の背中が曲がり角に消えた。 男の本性は去り際に出る。甘ったれた子犬みたく「またね」とか囁くやつ、教師じみた真面目顔で五分前の痴態に辻褄を合わせたつもりのやつ、振り返りもしないやつ。 今のヤツは……味気ない。ベッドの上でも教本通りみたいな行為。思い返す姿も既に朧だ。 ドアを施錠。首筋に残る気色悪さが癇に障る。他人の臭いが染みた肌着を
はじめに この記事は、ニンジャスレイヤーTRPG第二版ルールブック(2023年10月末日に物理書籍発売! メデタイ!)を用いたソロセッションのログを整頓、成形し、リプレイ的なかたちにまとめる事で余暇成長のアリバイ造りを計ったものです シナリオは古矢沢=サン謹製のランダムシナリオ『スカウト部門の日常』の派生オプション「ニチョーム自治会からの依頼」及び「アーチ級賞金首」を適用して行いました(幸か不幸か今回はアーチ級賞金首は登場せず) 『スカウト部門』の日常はミニマルにプ
まずはX-MEN2の話をせねばならない。 いや待っ、待ってくれ。長くはかからないので、お願い、ね? さて。 冒頭である。大統領執務室に襲撃をかけるミュータント。彼は短距離転移を繰り返しSPを翻弄していく。煙幕めいた残り香を置いて。 彼の名はナイトクロウラー。迎撃の銃撃が与えた痛みにより洗脳から脱し、逃走した彼は、後にX-MENの面々と遭遇するのだが……彼の真実の姿は、繊細で気弱な青年であったのだ。 強大な能力を持てあます、武威とは無縁の存在。 そういうのが大好
平鍋に放られた脂身のような塊は、熱を帯びると溶けはじめるが、本物の油のように爆ぜることはせず、白っぽい液状になって鍋底に広がっていく。 すっかりクリーム状になったそれを指で触れ、ほどほどの温度になったことを確かめる。指先にすくったそれを額に乗せ、薄く延ばした。両の頬、鼻先から全体、顎の下、耳とその裏側。肌の見える場所を漏らさぬよう、顔が終われば首、次は肩、と、順繰りに塗り広げる。 そうしている間に、額に僅かに酸性の痛みが生じた。合図である。 調理台の脇に重ね積んだ布切
身ぐるみを剥いだ下から現れたモグリの素肌は異様に生白い。陽射しの代わり多湿な空気に曝され続けた肌は油脂が厚くまとわり付き、毛穴に溜まった垢の塊が黒点となり、肌模様のように点々と張り付いていた。 覗きを働くような物好きなど居ないとはいえ、吹き抜ける風の触感は、あまり居心地の良いものではない。衣装入れから古布の腰巻を取ってとりあえずの着衣とし、一拍置くように天井を仰いだ。無意識に後頭部を掻いた爪に、ぼろりとした汚れの塊の感触がある。手を戻し、粘土のように指に張り付いたそれを、
鎧の留め具を外す。錆の混じる音と床に散った微粉を見て、モグリは難しい顔で口を結ぶ。やがて、思考を吹き捨てるように鼻で息を吐くと、昆虫の外甲を剥くように、部位ごとに分割された金属板を外していった。 すえた臭気が鼻につく。金属甲ではなく、モグリの身体の方からである。首周りからグラデーションを描くように変色した肌着に触れると、そこからボロリと砕ける。脱ぐというより破り捨てるような様でそれを始末し、居室の脇に口を開けた磁器甕に丸めて放り込んだ。 甕の奥には粘性のある液体があり、
この集落の居住区は、移動式住居の連なりである。 木柱に布張りして建てられたそれらは、往時はひしめくようにあったものの、今は点々とまばらに残るのみである。 試練の挑戦者はもっと“上等”な宿場に居を構えており、ここに集うのは、放浪の職人、根無し草、あるいはモグリのような試練の場に職を定めた人々だ。 住居の入り口には戸の代わりの縄が打たれているものの、覗き込めば屋内の様子が伺えるような解放感である。盗人に門戸を開いているようなものだが、余所者同士が目を光らせる集落において“
モグリは置いていた背負子の中を整え背負い直し、無意識に鎧胴の腹の辺りをさする。 「これから夕飯?」 「ああうん。まあ、いったん着替えて……『臭い』を落としとかないとね」 「別に気になんないんだけどねえ」 「ここに籠ってちゃあね。鼻が慣れてるんだよ」 モグリの返事には乾いた笑いが付いている。確かに、実質的な死体安置所であるこの施設の主となれば、死臭の類いに馴染みがあって当然ではある。「とにかく『岩屋』の肉が恋しくてね」 「あ、ガンクツさんとこ行く? ならちょうど良かったわ」
飛ぶ鳥も落とす見事な投擲である。木の葉が散るように書類が降り落ちるが、モグリの顔の照り汗に引っ付いたのか、一枚だけ、ヴェールのように接着されていた。 ……それが剥がれ落ちるまでの間に、“イキ”にまつわる話をしておこう。 “イキ” それを別の言葉に読み替えるなら、寿命、あるいは定命の量、だろうか。“イキ”の総量は各々の生誕の時に定まり、その消費量は生き様による。 より激しく、濃密で、危機に溢れた人生を歩む者ほど、一刻の間、より多くの“イキ”を費やす。太く短く、充実し
「そうか……そうかあ……」 宙を虚ろに眺めて呟くモグリの顔は、急に老け込んだように見える。 「ほんと、変なやつ」 ナトリは半眼。鼻で笑いつつ言い放つ。 「えぇ?」 「真面目で几帳面の朴念仁なら筋も通るけど、それなりに色の欲もあるし、美人に目がないし」 「それはまあ、ほら……夜艶の娘さんは、そういう……いやそうじゃなくて」 「そこで下品になれないの真面目にも程があんでしょうよ、ったく」 語尾を笑みに震わせながら、もはやモグリに視線を向けず書類を束ねにかかるナトリの脳裏に追
視線を落とせば、散乱した提出書類が落ち葉のごとく散乱する様が否応なく目に入る。どちらともなく、モグリもナトリと屈みこみ、それを拾い集めはじめた。紙同士が擦れる乾いた音が、広い構内に反響する。 「あのオヤジさあ」 「ヤセさんまた何か?」 波止岬のヤセは壮年の屍拾いで、モグリの先輩でありナトリの天敵でもある。 「次行くって」 「あー、それで宿題提出?」 「信じられる? 三月巡りぶん一気よ」 「う……わあ」 死拾いは股旅の生業である。十分な"需要"のある試練の地を聞き付ければ
13話大幅書き直し発生したのと明日は映画館で露伴先生なので……少し間が……開き…ます(次は土曜と書きかけた所で土日の予定もヘヴィーなの思い出す奴)
「律儀だよねえ」 呆れた調子の、娘の声がした。少し掠れて甲高い、愛嬌のある声音である。 振り向いたモグリは唐突に顔をしかめて眉根を寄せる。 「ナトリさんさあ」 「いまどき、そんな丁寧に鏡の“試し”やってる死拾いとか居ないでしょーよ」 「じゃなくてね」 モグリは利き手の人差し指をピンと伸ばし、己の胸元をつっつく仕草を見せる。ナトリと呼ばれた娘は、薄い夜着にショールを引っ掛けた姿で小首を傾げ、肩をすくめてみせた。目元に寝起きの跡が残る彼女は、この施設の管理責任者であり、優れ
鎧と兜の間から太い顎が覗いた。片手で仮面を剥ぐように外された兜を、いったん足元に置くために屈み込む。天井の灯火が目に入ったのか、眩しそうに瞳を伏せるモグリの素顔は、青年というには、多少、年輪を経ている。 色の薄い肌には浅く皺が浮かび、まばらに伸びた無精髭と引き結ばれた薄い唇は、普段、人の営みの中で生きる存在とは違う、種の隔たりを感じさせる。赤茶けた剛毛の頭髪は、いちど短く刈り揃えたのを時間をかけて伸ばしたような無精の髪型で、湿気に浸ってくるくると巻いていた。 汗が痒いの
四名ぶんの書類を重ね、角を揃えて記帳台の紙束の上に差し戻す。 ふとカウンターに散った書類に記された乱雑な字に目が行った。 走り書きを多少丁寧にしたような癖字はモグリも知った顔の同業者のものに違いない。書類の量を見るに、のらりくらり正式な報告を伸ばしたものを纏めて提出したのだろう。 つまりは、これこそが管理人が夜なべ仕事せざるを得なかった原因であり、なお現在進行形の問題なのだ。その一枚を覗き込めば、明らかに書き手の違う流麗な筆文字で『ゆるさんぞ』と端書きがある。清書の途