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しびろい日々(17)
この集落の居住区は、移動式住居の連なりである。
木柱に布張りして建てられたそれらは、往時はひしめくようにあったものの、今は点々とまばらに残るのみである。
試練の挑戦者はもっと“上等”な宿場に居を構えており、ここに集うのは、放浪の職人、根無し草、あるいはモグリのような試練の場に職を定めた人々だ。
住居の入り口には戸の代わりの縄が打たれているものの、覗き込めば屋内の様子が伺えるような解放感である。盗人に門戸を開いているようなものだが、余所者同士が目を光らせる集落において“見慣れないやつ”は目立つ。それに、ここに集う者たちの来し方を少しでも聞き齧ったなら、怒りを買うような真似など、とうてい出来ようがないだろう。
モグリの歩く気配を察したのが、住居から顔を出して様子を伺う者も居た。軽く頷き合い、視線を外す。言葉を交わすことはないが、互いの顔色でだいたいは分かる。
疎遠だか孤立ではない。そういう縁の結び方を、モグリも好いていた。
己の住居に辿り着くと、縄の下をくぐって我が家へと至る。床は毛の長い絨毯敷きで、相応に使い込まれたそれは、当て布が模様を描いている。
家具家財の類いは多くはない。むしろ、移動住居ということを加味しても素朴に過ぎる。唯一、頑丈に枠取りされた衣装箪笥だけが、場違いなほどに手入れされ、磨かれた木肌を陽に輝かせていた。
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