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しびろい日々(18)

 鎧の留め具を外す。錆の混じる音と床に散った微粉を見て、モグリは難しい顔で口を結ぶ。やがて、思考を吹き捨てるように鼻で息を吐くと、昆虫の外甲を剥くように、部位ごとに分割された金属板を外していった。
 すえた臭気が鼻につく。金属甲ではなく、モグリの身体の方からである。首周りからグラデーションを描くように変色した肌着に触れると、そこからボロリと砕ける。脱ぐというより破り捨てるような様でそれを始末し、居室の脇に口を開けた磁器甕に丸めて放り込んだ。
 甕の奥には粘性のある液体があり、ぬるんだ照り返しを放っていた。布屑のようになった肌着は、液体が染みるに従い、ぐずぐずと形を失い始めた。
 こうして混然一体となった液体は、いずれ回収に出され廃棄なり再利用なり扱われる。始末壺と通称される廃品処理用の仕掛け道具だが、モグリが持つものは常のものより多少、“刺激”が強い。試練の地には、日常世界には存在しえない組成の飛沫や微粉が常に漂っている。こうして溶液にしておけば、後々、それなりの値で引き取って貰える。屍拾いの”公的”な収入とは別に、こういった細かい副業の収益が、試練の地で生き残るための装備の補充には欠かせない。

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