QUESTLOVEからバトンを受け取る
2022年8月27日(土)、「BIG GROOVE presents QUEST LOVE」へ。会場は閉店まで1週間に迫った渋谷SOUND MUSEUM VISION。
QUESTLOVEはTHE ROOTS公演の為に来日しており、この日はビルボードライブ東京で1stステージ、2ndステージと2回のショーケースを行った後、こちらに移動してきたかたち。なんてタフなんだ。
本当ならばビルボードライブ東京でTHE ROOTSのライブを観たかったけれど、円安の影響のありサービスエリア14,900円/カジュアルエリア/14,500円という高値で断念。そんな中で深夜のクラブでのQUESTLOVEがDJするというのだから、行かない手はない。むしろブラックミュージック・カルチャーの来歴としてはそちらの方が本命といったところ。やったぜ。
事前にTwitterで参加の旨をつぶやいていると、何人かの出演者(面識はない)からDMが来た。「ディスカウントできます(=集客が弱いのでぜひ来てください、の意)」という。エッQUESTLOVEだよ?うそでしょ?もう若いヘッズにとってはQUESTLOVEはレガシーすぎるのか。ビルボードライブ東京のTHE ROOTSのライブは即完だったので、世代差が大きいのだろう。
そんなんで、当日は25:20に会場入り。タイムテーブルを見ると、QUESTLOVEはメインフロアの25:30-27:30の2h。開演10分前に到着した形でタイミングバッチリでありがたい。場内はたしかに空いていた。
会場入りするとざっと様子見に各フロアを一巡するのが筆者の常。VISIONは4つのエリアに分かれているが、少し離れた2番目に大きなエリアに客は1人、3番目のエリア(メインの後方)に30人ほど、最小のエリアに7,8人程度。ほとんどの客がメインに集中していても、6,7割程度の稼働率か。この程度の混雑具合ならば、音の大きいところ、見やすいところ、など、その時々で好きに移動しながら、存分に音を楽しむことができる。ありがたい。
さてQUESTLOVEの肝心のプレイはというと、ラップトップからそのまま出力。NOヴァイナルNO銀盤。昔のように重たいレコードバックから次曲を選曲する光景は見られなくなったが、何千曲もの音源をデータで形態できるようになった分、幅広い選曲が楽しめるようになった。かくいうQUESTLOVE御大、ヒップホップどころか、ソウルミュージックの歴史をすべて網羅したような、広辞苑のようなプレイだ。
クイックミックスで誰もが聞き覚えのあるフレーズをそこだけ聞かせたかと思うと次曲へ。次の曲はたっぷり聞かせたかと思うと、また1フレーズだけ大ネタを織り交ぜて、また往年の名曲に戻ったりと曲の長短は自在。そして年代の行き来も自在。さすが音楽の生き字引き。射程の長い、懐の広い、ぶ厚い時間だ。
音楽作品にはそこに込められたアーティストの〝想い〟がある。差別、苦悩、社会批判、叫び、愛、別れ、情熱、尊敬…音楽には人生の悲喜交々が詰まっている。それら1曲1曲に込められたメッセージ、背景も理解した上で曲と曲を繋いで、物語を繋げ、物語のスケールをどんどん拡張していく。持ち期間2時間という尺の中で起承転結、大きな物語を編み出していく。
唐突だが、仏教の経典(お経)の中に「般若心経(はんにゃしんぎょう)」という短編がある。経典は8万4000種あるといわれ、その中でも般若系にカテゴライズされる経典がある。その般若系の経典の核「心」の部分をたった約260文字に濃縮したのが般若「心」経だという。
何を言いたいのかというと、つまりQUESTLOVE御大のプレイは、ヒップホップどころか膨大なソウルミュージック全史のうち、核心のところを2時間のプレイに濃縮した「ソウルミュージック心経」だったという事だ。
人種を超えて魂の叫びが伝わってくる。
心象風景が伝わってくる。
ここが日本だからといって、極東アジアの非英語圏の黄色人種中心の国だからといって、「伝わらないだろう」って出し惜しみしたりしない。めいっぱい自らのバックボーンを、そして今伝えたいメッセージを、曲に乗せて物語に乗せて、伝えてきてくれる。存分に手渡してきてくれる。
「俺はこうよ。バトンは渡したよ。それを受けてお前らはどうすんのよ?」
と語りかけてくるようだ。
そして、フロアの客を躍らせている。
DJに求められる大前提は「その夜、客を躍らせることができるかどうか」だ。その上でここまでのメッセージを乗せてくるとは流石QUESTLOVE御大、恐れ入りました。
「コレだよ。ヒップホップのパーティーの醍醐味はコレなんだよ」という本懐をこちら側に手渡してきてくれていて、涙が溢れるような、記憶に残る一夜だった。
<了>