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さざなみになりたい | 聴覚過敏

音は空気が振動することで伝わる。

きっと音だけではない。
この世界の何もかもきっと静かに震えていて、それを留めておく何かがあって、それが時々くっついたり、離れたり。惹かれ合ったり、憎しみ合ったり。


音楽が自分の心に届くまで。
音源が耳殻に届くまで。
震えてから伝わるまで。
揺れてから震えるまで。


昨年にAirPods Proを購入した。ノイズキャンセリングの機能が素晴らしい。電車に乗れなくなった僕への、心理士からの薦めだ。音に集中すれば、電車に乗るのも少しは楽になった。いや、かなり楽になった。

というのも、僕は滅茶苦茶に耳が良すぎる。自分で言うほど耳が良い。たぶんほとんどの人が聞こえていない音まで聞こえてしまっている。静けさの中にある微弱な振動。虫の羽音、秒針が刻む音、鼓動する心臓。耳の造り自体がそうなのか、精神的に敏感になってしまっているからそうなのか。

音楽を聴くのも生み出すのも、恐らく他人よりは得意なのだろう。敏感さは時に強さとして、誰か一人でも他人の心を突き動かしたという事実は僕の存在証明になり得た。その代償として支払ったものはもちろん大きすぎたのだが。


音楽は続けるとか、辞めるとかそんなんじゃなくて呪縛だ。僕が存在しているから音楽があって、音楽が存在しているから僕がある。逃れられぬ使命を背負って生きていくしかないのだな。何度となく売り払っても返ってくるギターや音響機器に憎しみと愛を感じたり。

人間の存在が波ならば、僕は小さなさざなみになりたい。誰のためにもならず、誰の邪魔にもならず、ただ今ここに存在していたい。

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