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第14話 光属性

「パニック障害になってしまったのですが、髪切りに行ってもいいですか。」

高1から通っている美容院に電話をかける。
なんでいきなりこんな電話をしたのかはわからないが
完璧主義というメッキを塗り続けることができないくらい
助けを求めていたのかもしれない。

「全然気にせずおいで。してほしくない事さえ言ってくれれば対応するから。」

そう言ってくれたのは、いつも僕の頭を手入れしてくれていた
ワタリさんという美容師。




そもそも人見知り兼人間不信な僕が、なぜここの美容院に通い始めたか。
ホットペッパービューティーの自己紹介文に「洋服が好き」と書かれていたからだ。
ファッションが好きな当時の僕は、
「共通の話題があれば人見知り兼人間不信の陰キャでもなんとか会話を乗り切ることが出来るだろう。」
そんな非常に消極的な理由から、ここに決めた。

だが今ではすっかり、ワタリさん以外の人に頭を任せられない体質になっている。
無論、服が好きな事や人柄が良いだけでなく、カットやカラーのセンスもとても優秀な人だ。
(偉そうに抜かしてすみません。)



ワタリさんは陽キャなのだが、僕が心を許せる数少ない陽キャの一人である。
陽キャは陽キャでも、「光属性」なのである。

髪を切ってもらいながら、病気になるまでの経緯や、今までの人生について
ありとあらゆることを話した。
普通、友達でも家族でもない人間にこんな話をされたら迷惑だろう。
当時の僕は頭の片隅でそう思いながらも、溢れ出る弱音をせき止めることが出来ず話した。

「大変だったね。辛いのに話してくれてありがとう。」

衝撃だった。感謝するべき立場なのは
こんな重苦しい話を聞いてもらったこちら側なのに。
カズといいワタリさんといい
「話してくれてありがとう。」
自分にこんな言葉をかけてくれる人間がいるのかと。


ワタリさんも実は体の病気のせいで
遊び盛りの時期を病室で過ごしていた時期があったり
経営者になりたての頃、鬱病を経験していたという。
そこから何とか立ち直り、今では施術をしながら美容院の経営者をしている。素敵な家庭も持っている。

「父さんやお爺ちゃんみたいな特別な人間になれない。
こんな人生だったら終わりにしたい。」
そんな事をぼんやり考えていた毎日に一筋の光が差した。


そしてカットが終わり、鏡を見る。
身震いするほどの男前がいる。
あれ、俺こんなかっこよかったっけ。

会計を終え、店を出る。



「今死ぬのはもったいないな。」



1か月ぶりに学校へ行く。
突然の不登校で、今まで虐めてきたやつらを始め
ほとんど誰も口を利かなくなった。
卒業を目前に怯んだのか、見て見ぬフリ。

唯一、テニス部の人間は、腫れ物に触るようにではあるが話しかけてくる。

僕にとっては好都合だった。
ここは受験を終えるまでの滑走路でしかない。
ここに居場所なんて今更求めてなんかいない。



色々調べ、「別室受験」なるものを知る。
早速診断書を書いてもらい、センター試験をはじめとする各試験会場へ提出。

抗不安薬を頓用しながらなんとか受験は乗り切り、無事志望校への合格を果たす。
決して世に言う「高学歴」などではないが、通いたいと思える学校だったため、僕は満足だった。
(ちなみにセンター利用で合格が確定し、燃え尽きたため一般受験は悲惨な結果だったのはここだけの話である。)

何より、ハンディキャップを背負いながらもやり遂げたことが嬉しかった。



そこから何事もなく卒業し、式後の食事会に形だけ参加をする。
もちろん、ここでの記憶は全く残っていない。


そそくさと行事を終わらせ、今度こそ「居場所」が欲しかった僕は
Twitterに張り付く。





#春からJ大








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