ブドウの栽植密度と樹勢管理
自分はどちらかというと栽培の方が苦手で、調べながら書いてはいますが、見落としや勘違いなどあるかと思いますがご了承ください。
前回の稿で仕立て方とは何かということについて取り上げました。
今回の記事ではさらに踏み込んで栽植密度や芽を絡めた樹勢の話をしようと思います。
その前に樹間と樹冠と畝間の用語の個人的な使い分けだけ説明しておきます。
樹間:同列にあるブドウの木の距離
畝間:横の列のブドウの木との距離
樹冠:ブドウの木の葉や茎が広がっている部分
それでは本題です。
1. 栽植密度
まずは栽植密度について。
栽植密度というのは一定の面積当たり何本のブドウの株が植えられているかというものだ。
一般にその土地の水分量や肥沃度などを基準に考えていくが、基本的には肥沃度はある程度改善可能なので、灌水ができない地域では水分量が目安となる。
とりあえず具体例から見たほうが早いと思うので表を作った。
ここにあるのはその地域の一例に過ぎないが、何かを概算するときに参照できるデータを一つでも持っているか持っていないかでは大きな違いがある。
ちなみにラ・マンチャはスペイン中央部の乾燥地域なのだが、スペインの友人曰く砂漠のようなところらしい。
そしてここでまず見てほしいのは降水量と蒸発散量の差分だ。
それが大きい地域ほど、ブドウの樹が使える水分量が少ないということを表している。
この蒸発散量はある定められた植物を植えた場合にどれだけ地表面及びその植物体から蒸発散したかという値で、ブドウ木自身の蒸発散量ではないということを補足しておく。
そしてその有効な水分量が多いと思われる地域から順に栽植密度が多くなっているということがポイントだ。
水分量が過多であることはブドウの品質を下げることに直結するので、なるべく栽植密度を上げることで一本の木が使える水分量を減らすということが目的である。
またロワールでは畝間の距離は2.2mとなっている。これはシャンパーニュの畑より大きい機械を用いることを考えての設計なのではないだろうかといったこともこの数字から推測される。
2. 最適な栽植密度とは
「最適」なものなど自然環境下で見つけることができたら、私はすでに世界有数の栽培コンサルタントになっているだろう。
そのためここでは最適とは言わないが、自分が仮に畑を始めるとしたらどういったことを考えながら決めていくかということを思いながら書いていく。
まず日本に目を移してみよう。
日本は肥沃で降水量が多いと言われている。
そのため有効水分量が多く、樹勢が強いので樹間のスペースは広く、棚栽培が普及しているということは前回の稿でも述べた。
そこでそれが本当なのか気になったので日本の基準蒸発散量を計算してみた(ET0:基準蒸発散量(reference evapotranspiration)を気象情報から計算してくれるアプリがあった。)。
2017年の甲府の基準蒸発散量は1148mmだった。
甲府のその年の降水量は1013mm。
その差分は-135mmということになり、有効水分量ベースでは上の表のロワールと同程度の栽植密度が適切だということになる。
これはかなり意外な結果だ。
降水量が多くても収支ベースでみると、そこまで水分量が多いわけではないということだ。
しかし水分量問題は土壌の水分保持力というのがかなり大きな影響を与えており、火山灰土や低地が多い日本では総じて畑の水分保持力が高く、それがブドウに水分過多を引き起こしやすい環境を作っているのだろう。
話を栽植密度に戻そう。
ロワールと比較して4000本/haぐらいだろうか。日本は日照時間が短いので、なるべく収量に対して葉面積を増やしたい。
そのため木の高さを確保したいが、影が横の列に被るのは好ましくない。
というのも一枚の葉を透過できる光量は元の9%と言われているからだ(下図斜線部が葉面)。
そういうことを考えたうえで、VSPで2.0mぐらい畝間にスペースを空けることにする(つまり樹高をMax 2mまで取りたい)と樹間は1.25mということになる。
一方でこの畝間ではいくら他に利点があると言ってもLyreなど畝間に樹冠が出ているタイプのものは使いにくい。
そのタイプの仕立て方をするなら畝間をもう少し開け、栽植密度自体を減らしてしまうのがいいだろう。
こういったことを考えながら栽植密度を決めることになるかと思う。
しかし栽植密度は水分や養分の競合性を生むための考え方の1つではあるが、全体を見た時には他のファクターの方が影響が大きい。
というのも栽植密度を半分にしても、1本の樹自体のスペースを大きくとってしまえば必要となる水分量や養分、そして収量も同程度になり得るからである。
なので次の芽の数というのがより重要になってくる。
3. 芽の数と樹勢
栽植密度や仕立て方、これから書く芽の数などは全て樹勢と収量のバランスを土地に適したものにするためのツールなので、どれか1つだけでは成り立たない。
一方で方向性さえ間違えなければ、仕立て方や栽植密度はある程度の幅の中で選択していくことになるということだ。
そしてここで紹介する「芽の数」というのは容易に変えることができる。
そのため一番実践ベースで役に立つものである。
Buds loadと樹勢の関係及び、ブドウの品質の関係性というのはよく語られる。
Buds loadというのは「芽の負荷」というもので、芽の数が多いほど、栄養と水分が分散するので一本の茎の樹勢は弱まるというものだ。
もちろんブドウの収量も増え、糖の蓄積がうまくいかないなんてことも起こる。
しかし全体の樹勢自体は前にも述べたように変わることはない。
芽の数を調節することによって調節できるのは一本の茎の樹勢と収量だ。
茎の樹勢が強い状態では、側枝の成長が促される。
側枝の増加は基本的に収量にはあまり影響しないので、全体の葉面積に対する収量の割合は低下し、糖の蓄積を促すことができる。
一方で側枝は影を作ることにもなるのでしっかりと管理をしないと、無駄飯を食わせる葉を抱えることになる。
1つ研究を引用してみた。
この研究でいえばLeaf area per vineが木の樹勢、Leaf area per shootが一本の茎の樹勢を表す。
木の樹勢に比べて、一本の茎の樹勢がかなり変化することが見て取れると思う。
そしてこの表の一番上の行は1.5mの樹間で12個の芽を残しており、8 buds/mということでかなり少ない。
そして前回のRavaz indexを参照しても<5なので樹勢過多となっている。
樹勢過多の状態は光合成の側面ではいいが、余分な葉が多くなってしまうことや、収量が少なすぎて採算に問題が出るといったことが起こる。
日本では日射量が少ない分多少強めに樹勢をとってもいいかもしれないが、それでもこのRavaz index=3.9 (前稿参照)というのは少し過剰だろう。
またshoot lengthが長いことは高低にスペースを使えるので、ELAを考えても光合成には効果的だと考えられるのでうまく管理していきたい。
またこの実験に出てくる指標で、Leaf area/fruit weightというのも大事で、これも品種ごとに最適な値がある程度あり、CSはMeよりこの値が高い必要があるといったことも言われている(CSで1.2-1.5程度)。
ということで樹勢と収量のバランスをとるには芽の数の調節がかなり大きな役割を果たすことがこれでわかっていただけたかと思う。
最後にまとめておくと、
仕立て方、栽植密度(主に樹間)は中長期的な計画と方向性を決めるもの。
芽の数は単年で調節しつつ最適なバランスを見つけ出すもの。
次からは少し樹勢から離れて、品種や水分量や気温のモデルの話などをしていければと思います。
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