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【フィットネスクラブの最新事情】健康資産の維持のために

今回の経済・金融レポートは、番外編で健康資産のための情報として、フィットネスクラブ(※)の使い方とその市場動向について報告します。

監修:株式会社myコンサルティング
執筆:A.H

筆者はフィットネス歴20年余りですが、大半を一か所のジムで過ごしました。しかしこの間、この業界は構造変化をしており、特に新型コロナの影響を受け、激変を続けています。

個人にとって健康は最大の資産です。
その資産を守るため、最新のフィットネスの現況と使い方を探ってみます。

※フィットネスクラブと似た表現にスポーツジムがあります。この両者は目的で区別され、スポーツジムは筋肉トレーニングを目的とし、そのための機械を設置した事業体を一般的に指しています。
フィットネスはその他に、シェイプアップやリラクゼーション、体力向上も目的に加えており、経済産業省は「室内プール、トレーニングジム、スタジオなどの運動施設を有し、インストラクター、トレーナーなどの指導員を配置し、 会員にスポーツ、体力向上などのトレーニングの機会を提供する事業所を有する企業」と定義しています

体験・フィットネス

まずささやかな体験から始めます。
私は30代から50歳過ぎまで全くと言っていいほど運動をしませんでした。

新聞記者をしており20代の初任地の松江では、日本海で泳ぎ、隣県の鳥取、大山でスキーをしましたが、その後20年余りは、深夜、早朝の勤務の連続で帰宅もまともにできない日々が続きました。

取材先とゴルフをする仲間もいましたが、事件担当の当方は、官庁や企業との継続的な付き合いもなく、グリーン経験のないままでした。

フィットネスクラブに通うきっかけは50歳過ぎの脊柱管狭窄症の発症でした。腰痛を繰り返していたのですが、とうとう手術しかないと日取りも決められました。

しかし、腰の手術の経験者に聞くと、余り芳しい結果を聞きません。
直前になり紹介された鍼灸を受けたところ痛みの軽減があり、思い切って手術を見送りました。

そして鍼灸と共に始めたのがフィットネスの水中歩行でした。
通った先は、東京・大手町のビルの25階から27階にある「グランサイズ大手町」でした。

コナミスポーツの旗艦店が25階以上にあった大手町野村ビル

ここは業界最大手のコナミスポーツのフラッグシップ店ともいわれており、ジムもスタジオも広く、何より26階に25m、5コースの本格的プールと、スキューバーダイビング用プールまで備えていることが特長でした。

無論高層階からの眺めも良く、東京のビル群の彼方に富士山も遠望できました。ラウンジやロッカー、浴室、サウナ、シャワー室なども余裕を持ったしっかりした設備でした。

このフィットネスが作られたのはビルの竣工と同じ1994年です。
当時はまだバブルの空気の残りのある時代で、それゆえ室内の造作が贅沢になっていました。

このフィットネスは当初、東京生命のグループ会社が運営し、国内でも最高ランクのジムとして入会・保証金も数百万円だったともいわれています。往時はトップクラスの女優が何人もスイミングやスタジオに来ており、その見物客も増えて大変だったようです。

26階にあったグランサイズ大手町のプール

このフィットネスクラブは、当初東京生命グループの会社が運営していました。しかし2001年の東京生命の経営破綻後、コナミスポーツが経営権を取得し、運営を継続しました。
コナミに経営が移ってから、入会金も毎月の会費もかなり安くなりました。

場所が東京の中心地で、会費が高いこともあり、このフィットネスの利用者は他の施設に比べ利用者の平均年齢が高くなっていました。
私が入会したのが2002年でしたが、当時は近隣の金融企業に勤める外国人も会員に多く、昼間の僅かな時間も利用して、スイミングなどで体を鍛える欧米のビジネスマンの姿にちょっと圧倒されていました。

フィットネスでは私はまず水中歩行から始めました。
水の中を歩くだけではありますが、インストラクターにつくと、足の揚げ方、歩幅、身体による水の押し方など、実に多くの方法があり、十分な全身運動にもなることを経験しました。
それとともに腰痛も軽減していきました。

ジムでの筋トレもインストラクターの指導を受けました。
ダンベルやマシンを使うのですが、指導を受けるとその効果が大きく変わることも経験しました。

週3日通い始めて半年が経ち、腰痛が収まりました。
それまで四半期に一度はきつい腰痛になっていたのですが、それも無くなりました。体重の維持もできるようになりました。

私は間もなく後期高齢者になりますが、ジムで出会う人々には80歳代の先輩も多くおられます。大半がジム歴20年以上で、外見は10歳は若く見える人ばかりです。昨秋はそのうちの一人が日本マスターズ選手権のクロール200mで1位になり、祝杯も挙げました。

当方の通うクラブでも近年目立ったのが、若い人の増加でした。
特に30、40代の働き盛りの人たちが、健康維持やシェイプアップに関心を深めていると肌で感じています。また20代の人も増えており、若い頃から身体と健康に投資する姿勢に感心させられます。

フィットネス通いの壁

長年フィットネスに通い、多くの人が入会しては去って行くのを見てきました。そこからフットネスが習慣になるか、短期で止めてしまうかは2か月から半年で分かれる感じがしています。
2か月で半数近くが辞め、1年後継続している人は4%を切るとの調査結果もあるようです。

習慣化の壁として挙げられるのは、時間の制限、参加の気後れ、効果の確認の難しさなどだと思います。
ジムに行き、自分なりの運動とストレッチの予定をこなすには少なくとも1時間、着替えや汗を流す入浴、シャワーを入れるとやはり2時間近くかかってしまいます。
これだけの時間を割くことは、仕事を持つ人にはかなりの負担です。

もう一つ結構大きな要因が気後れだと、私は思います。
若い頃からスポーツをし、身体に自信のある人は別だと思いますが、私のように運動に縁がなく、体形の崩れた人間は、インストラクターなどに、動きの悪い身体を晒(さら)すのが大きな負担になります。

そして効果が出るのに時間がかかることです。
私の場合は、半年ほどで腰痛の軽減という手応えを得ることが出来ました。しかしフィットネスの健康効果というのは、なかなかはっきりわかる資料が見つかりません。

よく例示されるのはちょっと古い資料ですが、2017年に発表されたオーストラリアのシドニー大学の調査結果です。
30歳以上の8万人を対象にしたこの調査では、週150分以上の有酸素運動と週2回以上筋力トレーニングをしている人は、全死因における死亡リスクが23%低く、がんによる死亡リスクも31%も低いとの結果になりました。

有酸素運動は、健康維持の基本です。
特に生活習慣病の糖尿病、高血圧、脂質異常症や、高齢者に増える認知症などの予防にも大きな効果があるといわれています。

その有酸素運動向けとして大半のジムにあるのが、ウォーキング(ランニング)マシンやエアロバイク、クロストレーナーなどです。
しかし私は最初このマシンを使っていていつも自分がハツカネズミになった気がしていました。小さなかごの中で、回し車(ハムスターホイール)をひたすら回し続けるネズミと自分の姿が重なるのです。

このように見方によってはマシントレーニングは滑稽かつ殺風景ではありますが、天気や時間にかかわらず、安全に一定の運動量はこなせます。
そして年齢に関係なく続けられるのもこれらマシンの特徴です。

最後に習慣化に大切な要素として仲間づくりもあるようです。
同じ施設に長年通ううちに、会釈を交わし挨拶をする人も生まれます。

馴染みの人が今日も通ってきている。それだけでも結構励みになるものです。私の通っていたクラブでは会食のグループや、一緒に旅行などする人たちもありました。フィットネスが、暮らしを彩る仲間づくりも実現していました。

フィットネス通いの壁にコストが挙がるかもしれません。
しかし会費などの費用は後述しますように、公営施設も含め今いろいろな種類のクラブが生まれており、各自に応じた施設が選べます。

また一定の会費を払うことが、逆にそれに見合う利用をしなくては、という通いの要因にもなります。ポイントはやはり健康維持への各自の意欲だと思います。

そしてこれは、当方の通ったジムの85歳の元某銀行取締役の意見です。
彼の持論は、「ジムに長年通う人は仕事もできる」でした。

「継続してストイックにセルフコントロールして自分の体を鍛える能力は、目標を掲げその実現のための努力を継続するという仕事にも大切な実行力と同じだ」と説き、「ジムの常連はその大半が優秀な実業家やビジネスマン」だと言うのです。無論、当方のようなハズレもおりましたが(笑)。

馴染みのクラブの閉鎖

紹介してきましたように私のフィットネスクラブは、暮らしの一環に溶け込み、それなりに満足のいく時間になっていました。しかし2022年11月、突然コナミスポーツがクラブの閉鎖を通告してきました。

閉鎖の原因は、新型コロナの感染拡大に伴う2020年3月からの営業停止、その後の時間制限による営業収入の激減だったと思われます。

コナミホールディングスの2021年3月の決算資料を見るとスポーツ事業の通期の売上は364億円で前年に比べ38%余りの過去最大規模の落ち込みでした。そして2021年には全国の不採算の店舗の20店以上という大量閉鎖をしました。

グランサイズ大手町も以後営業やサービスの見直し、コスト削減などの努力をしたようですが、特にプールの浄化装置の老朽化など設備面での必要コストがかさみ、とうとう旗艦店の閉鎖にまでなったようです。

業界トップのコナミのフラッグシップ閉店は、業界の構造変化の象徴ともいえそうです。
国内のスポーツジムも含めたフィットネスの変遷を振り返ります。

フィットネスクラブの変遷

フィットネスクラブの先駆けは、1964年の東京オリンピック以後、国内各地でオープンしたスイミングスクールだといわれています。80年代には米国からエアロビクスが持ち込まれます。

エアロビクスは米国で開発されました。
酸素を十分取り入れながら運動を行うことで、全身の持久性を高めるといわれるトレーニング法です。ダンスの要素を取り入れ、音楽に合わせて運動できる有酸素運動で、心肺機能を向上させ、同時に脂肪燃焼効果も高く、ダイエットに効果があると大きなブームを巻き起こし、急速に広まりました。

以後国内のフィットネスクラブは、経済成長とともに順調に普及していきます。2011年3月の東日本大震災によって入会者が一時減少しましたが、直ぐ復調しました。

そして2019年には市場規模が約5000億円と業界史上の最高にまで達します。会員数は500万人を超えたもいわれました。

この成長パターンを壊したのが、世界規模の新型コロナの感染拡大でした。

経済産業省「第3次産業活動指標」

上の経済産業省のグラフを見てもフィットネスクラブは、他のスポーツ施設に比べても大きく落ち込み、その後も回復が鈍いことが分かります(※1、※2)。

(※1)=市場近況 

フィットネスクラブは2022年に入り、やっと利用者数が回復傾向になります。経済産業省の調査では2022年の利用者数は前年比6.8%増加になっています。
日本経済新聞が2022年10月にまとめた調査では、21年度の売上高の1位はコナミスポーツ、2位がセントラルスポーツ、3位はルネサンス、4位がカーブスホールディングス、5位がライザップでした。
トップのコナミスポーツは直営152施設を含む371施設を運営しており、スポーツ事業としての2022年3月期の売上は約420億円で、前期比約15%増、営業利益は約1億円で前期の▲295億円から大きく改善していました。

(※2)=フィットネスの利用率は低い

2020年当時の数字ですが、国内のフィットネスクラブの施設は4000軒ともいわれていました。コロナ感染拡大前の2015年から2019年は売上も利用者数も増加を続けました。しかしこのフィットネスの会員数は2018年の調査結果では全国の総人口の約3%で、約20%の米国、約15%の英国、8%余りのフランスなどと比べるとまだまだ低い利用率で、逆に言えば未開の市場が残っているともいえます。

市場を支える小型店モデルの拡大

フィットネスクラブの復調は鈍いのですが、別の調査によると、コロナ禍でもスポーツの実施状況の低下は見られていません。
多くの人は、人との接触、対面を避けながら、ウォーキングやランニング、トレーニング、階段昇降など各人で工夫し、運動不足を補っていました。

そしてこのコロナ・パンデミックが吹き荒れるうちに、フィットネスクラブは大型施設から商業ビルの一部を利用した小規模のスタジオスタイルや、マンションの一室を使うパーソナル指導タイプ、さらにネットで動画を配信しリモート指導をするクラスなど、多彩な形態が広まっていきました。
近年の特徴は、ジムとスタジオだけという小型店の増加です。その中の主なものを、見てみます。

24時間ジム

24時間ジムのエニタイムフィットネス上野店・同社サイトより

先ず注目を集めるのは24時間ジムの急拡大です。
24時間年中無休がセールスポイントで、マシンを揃え、無人で営業する店も多くあります。その中のトップはファストフィットネスジャパンの運用する「エニタイムフィットネス」です。

米国のフランチャイズチェーンの権利を取得して日本でジムマシン特化型24時間ジムとして展開しています。開業した2010年から同2022年6月の10年余りで1019店(直営166、FC853)と急増しています。
2020年にはフィットネスジムの店舗数では国内第1位になり、2021年12月には東証一部上場を果たしました。

24時間ジムはプールや大きなスタジオなどは持たず、マシントレーニングに特化しています。そのため設備投資と人件費が抑えられ、利用客には低額な利用料でサービスできることから急速に普及しました。

女性専用

もう一つ小規模フィットネスで急成長しているのが「カーブス」です。
1992年にメリカで創業された女性専用のフィットネスクラブです。

30分間のサーキットトレーニングを中心に手軽さがポイントで世界80か国以上に広まっています。日本でも2004年から展開し、現在では全国に200店舗を超え、市場規模は約700億円ともいわれています。

スーパーなどの商業施設と隣接することの多いカーブスは、地域密着型の女性向けフィットネススタジオともいわれます。これまで運動とは無縁だった女性もターゲットにしており、筋トレと有酸素運動を繰り返し30分で効果を挙げるプログラムが、シニア層の女性の人気を集めています。

パーソナルジム

個々の顧客にトレーナーがつき、指導するトレーニングシステムも利用者が増えています。体力や年齢など一人ひとりの状況に応じたサポートが実現し、効果が出やすいのが評価されています。

中でも大規模な宣伝で注目を集めたのが「RIZAP」です。ボディ―メイクとダイエットを主な目標に、専属トレーナーが週2回のトレーニングを指導。

同時に厳格な食事コントロールも行い、運動と食の両面から管理して成果を目指します。利用料は2か月で30万円を超すコースからと高額ですが、「納得いかない場合は全額返金」などともアピールし、パーソナルトレーニングの一角を占める存在になっています。

フィットネスクラブの費用

フィットネスクラブには多様な形態があることを見てきました。
それゆえその利用に必要な経費も正に千差万別です。

2023年の総務省の調査では、フィットネスクラブの利用料の1か月の平均は10,232円とされています。最近はマシンだけおいてスタッフを極力減らすか無人のジムも増えており、この平均値がやや高い感じもします。

東京などで目立つのは、入会金(3000円から2,3万円)の無料化、入会月の無料などのサービスです。

最高ランクはホテル内でのクラブになると思いますが、私の知る範囲のトップは知人が通う大手町のホテルのクラブです。クラブは30階以上にある2フロアで、トレーニングルームからは東京都内を一望できます。
この高さで30メートルのプールを備えています。会費などは公表されていませんが、入会金が500万円余り(返金はありません)、それに保証金や月会費を入れると当初1000万円近い出費になったようです。

彼は物販会社を経営していますが、常に「公私ともども一番大事な財産は自分の健康」と言っていました。
最高ランクのジム通いも「僕は酒も飲まない、クルマを買うような趣味もない。唯一続けているのはジムだけなので、妻も納得してくれた」ようです。

個々の健康は国にとっても大切な財産です。
常々思うのですが、フィットネスクラブなどの費用は、医療費などと同じように税の控除対象に含めるべきではないでしょうか。
健康な人は、歳をとっても仕事の生産性の維持ができ、そして医療費もかからない。国にとっても一石二鳥の効果があると思っています。

この最高ランクの対極で、一番コストがかからないのは公営のスポーツジムです。東京都内の場合、この公営施設がかなり充実しており、その反面まだ十分に利用されていないようです。

体験のため江東区の区立スポーツジムの一つを見学しました。
ここはプールはないのですが、ランニングから筋肉トレーニングなど、必要な種類に器機はしっかり揃っていました。
ランニングマシンは8台あり、それぞれ利用時間の制限(30分)がありますが、混雑が予測される日曜日の昼でも空きマシンがありました。

各マシンは2022年秋に更新した最新のものでした。
公営ジムはどこも広いスタジオを持っており、ストレッチもゆっくり自分なりのペースで行えます。

利用料は江東区の場合1回の利用で400円。シニアは100円。入会金などはありません。区によって利用料はばらつきますが、いずれも1回数百円と値打ちな価格になっています。

公営ジムの設備は一般のフィットネスクラブに遜色がありません。

東京都中央区の総合スポーツセンター・トレーニングルーム

世代でクラブも変えていく

当方の通ったジムの話からフィットネスクラブの現況をいろいろ紹介してきました。振り返りまして、ジムは自分の暮し、働き方で時々に変えていけばいいと考えるようになりました。

若い頃は隙間時間を効率的に使うために、プライベートジムや24時間ジムを利用する機会が多いと思います。そして齢を重ねるにつれ、自分の体力に応じてゆったりとトレーニングできる施設、設備を選ぶことになると思います。

長続きするにはやはりそこに楽しみと快適さが必要です。
気に入った設備を選ぶか、仲間との出会いを求めるか。
出来れば双方実現させ、健康という資産をいつまでも守りたいものです。

監修:株式会社myコンサルティング
執筆:A.H
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2023©️My Consulting Co.,Ltd


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