muuの本棚

140字でまとまらなかった本の感想

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140字でまとまらなかった本の感想

最近の記事

『一瞬の風になれ』佐藤多佳子さん

夏休みの宿題の中で、読書感想文が一番好きだった。 本を読むのも、作文を書くのも、いつもと違う原稿用紙の手触りも、全部好きだった。 小学生の頃から図書館にはよく行ったし、その頃からたぶん読書が好きだった。 でも、自分が読書の沼に落ちたのは、「本って面白い」って自分の中で確信したのは、この本と出会ったときだったと思う。 初めて読んだのは、中学生の時。1年だったか、2年だったか、3年だったか、時期はちゃんと覚えてない。中学生の時は本を買うことがあんまりなかったから、学校の図書館で

    • 『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』尾形真理子さん

      遠距離恋愛中の彼氏がいる。 古着が好きでいつも自分に似合うお洒落な服を着ている。洋服のことになると妥協しない男。 今まで自分が「これは着ないな」と思ってきた派手な柄物も色物も「え、かわいくない?」って普通に着こなしちゃう男。 なんだろう。悔しい。ずっとそんな気持ちがあった。どっちかというと化粧にも洋服にも無頓着だった大学2年生の自分にとっては、あまりに眩しかった。おしゃれしたって化粧したってどうせ自分は自分だからなぁとなんとなく諦めに近い気持ちがあったからこそ、彼はキラキ

      • 『イマジン?』有川浩さん

        「そうやって想像すんのが大事なんだ。たとえ最初は見当違いでもな。自分が何をしたら相手が助かるだろうって必死で知恵絞って想像すんのが俺たちの仕事だ」 社会人1年生の今の自分に、この言葉は何より大切な気がした。 この小説は映像制作の現場を舞台に新人イーくん(良井くん)が走って走りまくる物語だ。本来の意味での走りはもちろん、感情の突っ走りや夢への突っ走りも含まれる。 テレビで放送(放映)されているドラマや映画製作の舞台裏。 受け手側の自分が見たことも聞いたこともない知らない世

        • 『昨夜のカレー、明日のパン』木皿泉さん

          テツコとギフ。徹子と義父。 同じ読み方。同じ意味。 でも不思議と「テツコとギフ」の関係はこの本の中にしかないと感じる。 彼らだけのものな気がする。 この本は九つの物語の詰め合わせだ。それぞれの視点から、時間軸から、話が進んでいく。共通しているのは、物語の背景に「大切な人との別れ」があること。悲しさや寂しさが残る中で、みんな生きている。 全部の中心にあるのは夫を亡くしたテツコと息子を亡くしたギフの共同生活。一緒に住んでいるからこそ干渉しすぎない適度な距離感が心地いい。 そ

        『一瞬の風になれ』佐藤多佳子さん

          『阪急電車』有川浩さん

          再読。前に読んだのはいつだったかもう覚えてない。 でもとてもいいなと思ったことは、はっきり記憶に残っていた。 学生時代の通学は自転車で、社会人になっての通勤は車の私が電車に乗ることは数えるくらいしかない。たまに乗る電車の中で揺られながら本を読むのはすごく好きだ。でも電車に慣れていない私はちょっと人が多いと席に座りそこねてしまう。そんな時は同じ車内にいる人を控えめに観察していたりする。 だからこの本を読むと、登場人物たちと同じ車両に乗っている気分になる。それぞれがそれぞれを

          『阪急電車』有川浩さん

          『炭酸水と犬』砂村かいりさん

          「決着がついたら教えて。いつまででも待ってるから」 ああ、もう。読んでほしい。一人でも多くの人に読んでほしい。 誰かを好きになるとき、それを自覚するときってブレーキが効かなくなる。 周りからどう見られるかとか、タイミングがどうとか言ってられなくなる。 この本の中の恋愛がいいか悪いかはどうでもいい。 登場する人たちの心が揺れる瞬間、自覚してない感情に突き動かされる瞬間がたまらない。 この本は、9年付き合って結婚も視野に入れていた彼氏、和佐の「もうひとり、彼女ができたんだ」と

          『炭酸水と犬』砂村かいりさん

          『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこさん

          「差別はいけません。やめましょう。」「多様性を認めましょう」日常生活の中で最近よく聞くフレーズだなと感じる。よく聞くフレーズだから、自分自身も「そうだよね」とあまり考えずにうなずいてきたと思う。 でも、これってすごく難しいことなんじゃないだろうか。 今まで20年ちょっと生きてきた中でも数えきれないくらいたくさんの差別や偏見に出くわしているし、自分自身を偏った視点から見られて決めつけられたり、あまり意識せずに誰かを偏った視点で見て傷つけたりしてきた。 国籍や言語、人種など母数

          『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこさん

          『私は私のままで生きることにした』キム・スヒョンさん

          「私のままで生きる」って難しい。 実際、「自分は自分らしく生きられているから問題ないよ」と胸を張って言える人ってどれくらいいるんだろう。私はとても言えない。 自分っていう人間についてそんなによく分かっている気もしないし、自分を否定的に見てしまう自分との戦いが絶えない。「自分らしく」と思いながら、人と比べて喜んだり悲しんだりしている自分もいる。 だから、この本に何かヒントを求めていたんだと思う。 読んでいく中で、自分の中で上手く消化できない気持ち、くすぶっている想いにぐっと響

          『私は私のままで生きることにした』キム・スヒョンさん

          『キネマの神様』原田マハさん

          鳥肌が立った。寒いわけじゃない。血の気が引いて青ざめたわけでもない。 小説を読んで鳥肌が立った。心が、体が、震えた。それも作中何度も何度も。 『キネマの神様』記憶が正しければ、年明けくらいから映画化の話題がメディアやSNSで取り上げられていた気がする。読みたいと思って、本棚に仲間入りさせていたにもかかわらず、2~3ヶ月くらい枕元に置いたままだった。 自分は小説を読んだ作品が映画化されてもあまり観ない。逆に映画を観た作品の原作小説はあまり読まない。映画を観た後に、小説を読む

          『キネマの神様』原田マハさん

          『アパートたまゆら』砂村かいりさん

          「たまゆら」っていう日本語をこの本ではじめて知った。 意味は「ほんのしばらく」「束の間」。 なんで「アパートたまゆら」というタイトルにしたのか、最初は言葉の意味が分からないことも含めて不思議に思った。 読み終わった後、タイトルの良さに「素敵だー!」と心の中で叫んだことは言うまでもない。 この小説をとても簡単に説明するなら「アパートのお隣さんとの恋愛」になる。 でもそんな一言では表せないくらいときめきと人間らしさが詰まっている。 好きな人と同じ空間にいる落ち着かなさとか、会え

          『アパートたまゆら』砂村かいりさん

          『ツバキ文具店』小川糸さん

          鎌倉に行ってみたくなった。 生活の中に寺社仏閣が溶け込んでいるような雰囲気をこの本に登場する人々の生活から感じた。都市部に近いながらもどこかのんびりした空気感の中で物語が進んでいく。 青空の下、日陰にある公園のベンチで読んでいるような爽やかさがある。 文具店は書店と並ぶくらい好きだ。 文房具に詳しいわけではないけれど、技術の進歩と昔ながらの趣が共存している気がするから。普段私たちが使う文房具の種類は多くない。 「書ければなんでもいい」場面で書くことが多いからだと思う。 筆記

          『ツバキ文具店』小川糸さん

          『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾さん

          手紙というものが好きだ。 手で書く温かみがあるとか気持ちがこもっているとか、そういう理由はもちろんあるけど、手で書く言葉にはその人が映る気がするから。 スマホで友達に「ありがとう」と返信するときとボールペンを持って「ありがとう」と手紙に書く時を想像してみる。「ありがとう」っていう一言を画面上に打つときと紙に書くとき、時間がかかるのは後者のほうだと思う。それは単純に文字を打つスピードと文字を書くスピードが違うということだけではなくて、文章の中のどこで「ありがとう」という一言を

          『ナミヤ雑貨店の奇蹟』東野圭吾さん

          『あなたは、誰かの大切な人』原田マハさん

          「「結婚したから、一緒にいる」じゃ上手くいかないよ。一緒にいたいから、結婚したんじゃないの?」 最近聞いた言葉ですごく記憶に残ってる。妙に納得したのだ。 だって最近見たり聞いたりすることが多いのは 「家族だから大事にしなさい」とか「友達だから一緒にいてよ」とか 「付き合ってるんだからお互い助け合わないと」とか肩書きや関係性が前についてる言葉ばかりだから。 「男なんだから」「女なんだから」「母親なんだから」「父親なんだから」に加えて、こんな調子だから「もうそこはいいんじゃない

          『あなたは、誰かの大切な人』原田マハさん

          『52ヘルツのクジラたち』町田そのこさん

          この本は救済の物語だと思う。 毒親、虐待、DV、性差別、今の世の中に根強く蔓延る暗い部分。 知らずに触れずに生きていく人もいれば、何度も何度も引きずりこまれて抜け出せない人もきっとたくさんいる。 この話に出てくる人たちは暗い世界を知っていて、その上で同じ暗い世界にいる誰かを救いたいと願っている。 人を助けたいという思いで自分を犠牲してしまうこと、誰かを救えたと思ってもまた逆戻りしてしまうこと、本の3分の2くらいまでは何度も絶望させられた。この先に、幸せになれる未来なんてあ

          『52ヘルツのクジラたち』町田そのこさん

          『チア男子!!』朝井リョウさん

          やっぱり青春スポーツ小説は好きだ。 暑苦しくてバカみたいにまっすぐに何かに打ち込む人の姿はエネルギーが半端ない。 ただ、「いろんなことを乗り越えて結果を出しましたよ」っていうストーリーにはあまり惹かれない。 もちろん結果を出すことが1番分かりやすいハッピーエンドでみんなそれを目指していることは承知の上だ。自分もスポーツをやっているから、結果が出ることの喜びはすごくよく分かる。 でも小説になったとき、求められるのはたぶん誰が読んでもすごいと分かる結果じゃない。「県大会優勝

          『チア男子!!』朝井リョウさん