『阪急電車』有川浩さん

再読。前に読んだのはいつだったかもう覚えてない。
でもとてもいいなと思ったことは、はっきり記憶に残っていた。

学生時代の通学は自転車で、社会人になっての通勤は車の私が電車に乗ることは数えるくらいしかない。たまに乗る電車の中で揺られながら本を読むのはすごく好きだ。でも電車に慣れていない私はちょっと人が多いと席に座りそこねてしまう。そんな時は同じ車内にいる人を控えめに観察していたりする。

だからこの本を読むと、登場人物たちと同じ車両に乗っている気分になる。それぞれがそれぞれを見ていて、声をかけたりかけなかったり、出会ったり別れたり、その場限りだったりその後もだったり。シンプルに同じ電車に乗ったという偶然から声をかけることができる度胸に驚きつつ、そんな人たちの会話や仕草、電車を降りた後に続く物語にドキドキする。

電車の中での出会いが人と人を繋げることもあれば、人と人を切るときもある。でも、どちらにしても、その後も彼ら彼女らの物語は続いていく。いつも劇的な瞬間が待っているわけじゃない。だからこそ、人は何かが変わる瞬間を期待するし、その瞬間には積み重ねてきた時間とか関係の深さとか大事にしてきた価値観とかそんなものを飛び越えてしまう何かがある。

「西宮北口から宝塚までを遡る車中、乗客たちがどんな物語を抱えているか―それは乗客たちそれぞれしか知らない。
人数分の物語を乗せて、電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。」

電車に乗って降りるまでの限られた時間の中で、続いていく毎日の中で見ればほんのささいな時間で、人生は変わるかもしれない。
そんなことがどこかで起きているのかもしれない。そう思わせてくれる。

じんわりと温かく、そしてときどき胸がきゅっとなるような素敵な1冊。


(読了日:2021年12月12日)


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