『52ヘルツのクジラたち』町田そのこさん

この本は救済の物語だと思う。

毒親、虐待、DV、性差別、今の世の中に根強く蔓延る暗い部分。
知らずに触れずに生きていく人もいれば、何度も何度も引きずりこまれて抜け出せない人もきっとたくさんいる。

この話に出てくる人たちは暗い世界を知っていて、その上で同じ暗い世界にいる誰かを救いたいと願っている。
人を助けたいという思いで自分を犠牲してしまうこと、誰かを救えたと思ってもまた逆戻りしてしまうこと、本の3分の2くらいまでは何度も絶望させられた。この先に、幸せになれる未来なんてあるわけないと思った。
不幸なことがなぜかいくつも続くっていうことは自分にもあった。
だからこそ、その後幸せになる未来を願ってしまったのかもしれない。
主人公が傷つくたびに心が重たくなった。


でも、ちゃんと最後まで読めた。読んでよかった。
この本を読んで、救済とは選択肢があることだと思った。選択肢に気づかせてくれる人が近くにいることだと思った。

人が人を救う。それは相手の目に見えていない選択肢を見せてあげることなのかもしれない。自分の意見を押し付けることは救うふりをした抑圧だ。
そういう人は「あなたのためだから」って言葉を使う。
罪深い言葉だと思う。どんなことも正しいと言い聞かせているようなものだから。


人に選択肢を見せてあげられる人になりたいと思う。
それが相手の選択肢を見せてもらうことにもなると思うから。
そして、見せた選択肢で相手が少しでも楽になったら、自分も救われると思うから。


(読了日:2021年9月1日)

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