『あなたは、誰かの大切な人』原田マハさん

「「結婚したから、一緒にいる」じゃ上手くいかないよ。一緒にいたいから、結婚したんじゃないの?」
最近聞いた言葉ですごく記憶に残ってる。妙に納得したのだ。

だって最近見たり聞いたりすることが多いのは
「家族だから大事にしなさい」とか「友達だから一緒にいてよ」とか
「付き合ってるんだからお互い助け合わないと」とか肩書きや関係性が前についてる言葉ばかりだから。
「男なんだから」「女なんだから」「母親なんだから」「父親なんだから」に加えて、こんな調子だから「もうそこはいいんじゃない?」と思ってしまっているのが正直なところだ。


この本の主人公は30代から50代の独身女性たち、そしてそれを取り巻く形を持たない絆。「いい夫」でも「いい父」でもなく「いい男」としての姿を家族に見せ続ける男とその家族、仕事で出会った歳が二回りくらい離れた友人たち、少年のようにまっすぐに仕事をする異性の仲間、それぞれがいいこと、悪いこと、楽しいこと、苦しいことを過去に抱えて、ぶつかりながら想いあって生きていく。

「大切だよ」なんて言葉にしなくていい。たった1つの行動で、言葉で、表情で、悩んでいるのか、迷っているのか、言いづらいことがあるのか、励ましてくれてるか、寄り添ってくれようとしているのか、なんとなくわかってしまう。それがお互い様だから、また心がぐっと引き寄せられる。

家族でもいい。恋人でもいい。友人でも仕事仲間でも。何の肩書きも名前もない関係性でいい。
大事にしたいから、大事にしてる。
そんな人と人との関わりに、そしてその間にある穏やかな孤独が心地よい。
自分が大切に想っている人に必ず大切にしてもらえるという保証はないけれど、自分が気づかないところで自分を大切に想ってくれている人もいるかもしれない。それなら生きていける気がする。

「ねえ、マナミ。人生って、悪いもんじゃないわよ」
「大好きな人と、食卓で向かい合って、おいしい食事をともにする。笑ってしまうほど単純で、かけがえのない、ささやかなこと。それこそが、ほんとうは、何にも勝る幸福なんだって思わない?」

悲しみも辛さもある。避けられない別れもある。
でも誰かと一緒に過ごす少しの時間でまた生きていこう、歩いていこうと思えることもある。
そんなことを教えてくれる素敵な1冊。


(読了日:2021年9月5日)

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