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『一瞬の風になれ』佐藤多佳子さん

夏休みの宿題の中で、読書感想文が一番好きだった。
本を読むのも、作文を書くのも、いつもと違う原稿用紙の手触りも、全部好きだった。
小学生の頃から図書館にはよく行ったし、その頃からたぶん読書が好きだった。
でも、自分が読書の沼に落ちたのは、「本って面白い」って自分の中で確信したのは、この本と出会ったときだったと思う。

初めて読んだのは、中学生の時。1年だったか、2年だったか、3年だったか、時期はちゃんと覚えてない。中学生の時は本を買うことがあんまりなかったから、学校の図書館で借りたんだと思う。読書感想文用の本として。
表紙が綺麗というか、素朴というか、そんな感じ。水彩絵の具で描いたような柔らかい感じ。今でもそうだけど表紙を見て「いいな」と思ったものを読むことが多いから、その時もきっとそれくらいの気持ちで借りたんだと思う。本を読むことが苦じゃなかったから、「面白くなかったら他の本にしよう」くらいのテンションで。

当時の自分が読み終わってどんな気持ちだったのかは正直分からない。でも、3冊あるのにすごいスピードで読んだ記憶がある。読書感想文を一瞬で書き終わったのもなんとなく覚えてる。久しぶりに読んで、その勢いで今書いてるから、中学生の自分もそんな感じだったんじゃないかなと思う。なんだろう。胸の奥がたぎる。熱くなるっていうより、たぎる。グツグツする感じ。

本の内容について、説明するべきなのか悩む。拙い自分の語彙力で中途半端な説明になっちゃうくらいなら、もう前情報なしでとにかく読んでほしい。
そんなことを考える。でも、中身に全く触れないのも変だなとも思うから、ちょっとだけ書く。

新二と連。この二人がこの本の中心。幼馴染。陸上部のチームメイト。簡単に言えばそうだけど、それだけじゃ全然言い表せない。そんな二人が走る。練習で、試合で、それ以外で。時に同じレーンで、時に別のレーンで。

「走る」ことだけがずっと話の中にあって、一緒に走るメンバーもそれぞれの気持ちも変わり続けていく。頼もしい先輩、危なっかしい後輩、マイペースな先生、ビビっちゃうほど強いライバルたち。思わず力が入ってしまうようなプレッシャー、えげつない緊張からの解放感、届かなかった時の悔しさ、苦しいことを乗り越えたときの喜び。喜怒哀楽すべてに振り回される。そんなもの全部がどうしようもなく痛くて、辛くて、でもずっと見ていたくて、胸がいっぱいになる。何回読んでも、たぶん同じところで泣いてて、同じところで笑ってる。

どうにか伝わるようにって半分祈りながら、言葉にしてみたけど、ダメだ。まとまらない。
名前を出して語りたい人たちも、振り返りたい試合も多すぎて、とても無理。この本読むと、自分が一緒に走ってた気持ちになっちゃう。陸上やったことないのに。
もう覚えてるだけでも10回以上読み返してるから、みんな本の中の人じゃなくなってる。どこかの高校で陸上やっててほしい。走っててほしい。読むたびに背中押してもらってるし、これからもお世話になっちゃう気がしてる。こんな本、もうないかもしれない。あーもう何が言いたいのか分からない。みんな超がんばる。輝いてる。だから読んでほしい。

読んだ後の興奮で書くと、何を伝えたかったのか分からなくなる。
ここまで読んで「???」ってなってる人がいたら、謝りたい。

でも、伝えたいことは1つです。
『一瞬の風になれ』を読んでください。一緒に走ってください。
一生懸命頑張ることって、かっこいいと思うんです。
それは高校生だけじゃない。青春とかそんな言葉で片付けたくない。
頑張るってしんどい。逃げ出したい。
でも、何かに本気で向き合える自分でありたい。
夢中になれるものがない。
でも、歳とか立場を言い訳に熱を失いたくない。
そんな人の背中を押してくれる。自分史上最高の1冊。



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