『アパートたまゆら』砂村かいりさん

「たまゆら」っていう日本語をこの本ではじめて知った。
意味は「ほんのしばらく」「束の間」。
なんで「アパートたまゆら」というタイトルにしたのか、最初は言葉の意味が分からないことも含めて不思議に思った。
読み終わった後、タイトルの良さに「素敵だー!」と心の中で叫んだことは言うまでもない。

この小説をとても簡単に説明するなら「アパートのお隣さんとの恋愛」になる。
でもそんな一言では表せないくらいときめきと人間らしさが詰まっている。
好きな人と同じ空間にいる落ち着かなさとか、会えない時間のもどかしさとか、好きっていう気持ちのせいで早とちりしてしまう姿とか、どんどん心の中に流れ込んでくる。
本の中の2人につられて自分の気持ちまで泡立ってそわそわする。
自分が片想いをしている気分にもなるし、両片想いの2人を近くで見守っているような気もしてくる。
好きだからこそ近づいていく部分と好きだからこそ遠回りしてしまう部分がリアルで、読んでいる手が止まらなくなる。

アパートという入れ替わりが激しく、同じ敷地内にいる住民と何の接点もなくても生きていける空間。
そんな中で、少しずつ近づいていく2人と他の住民たち、そして住民を取り巻くたくさんの人たち。
それぞれが誰かとくっついたり離れたりしながら生きている。
点がつながって線になり、その線と線が重なって今の自分の場所がある。
そのことを1冊を通して優しく教えてくれている気がした。

「やっぱりたまゆらより永遠がいいじゃないですか」

壁1枚挟んだ2つの部屋で喜んだり悲しんだり、追いかけたり逃げちゃったり、色々な感情の中で忙しなく揺れる2人をずっと見守っていたくなる1冊。


(読了日:2021年9月27日)

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