『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』尾形真理子さん

 遠距離恋愛中の彼氏がいる。
古着が好きでいつも自分に似合うお洒落な服を着ている。洋服のことになると妥協しない男。
今まで自分が「これは着ないな」と思ってきた派手な柄物も色物も「え、かわいくない?」って普通に着こなしちゃう男。

なんだろう。悔しい。ずっとそんな気持ちがあった。どっちかというと化粧にも洋服にも無頓着だった大学2年生の自分にとっては、あまりに眩しかった。おしゃれしたって化粧したってどうせ自分は自分だからなぁとなんとなく諦めに近い気持ちがあったからこそ、彼はキラキラしてて素敵に見えた。

付き合いはじめてからそんな自分がお洒落な彼氏の影響を受けまくっている。服にお金をかけるようになったし、着ていく服を選ぶ時にいろんなことを考えるようになった。化粧も前より少しだけ頑張るようになった。いい変化だと思う。でもどこまでいってもちょっと悔しいのだ。ひねくれている。

いつも自分の1歩先にいる彼がいる気がしてしまう。比べるものではないのに比べてしまう。
どんどん変わっていく自分とあんまり変わってない気がする彼になんとも言えない気持ちになる。

この本を読むと、そんな彼のことが頭に浮かぶ。
その人に似合う服を選ぶという意味で彼の感覚は研ぎ澄まされているなと思う(贔屓目はきっとある)。Closetで働いてる彼の姿を思い浮かべる。

そして、少しだけ自分の感情に向き合ってみる。

ああ、私は彼氏の隣にいることで自分が自分じゃなくなっていくような気がして悔しかったのかなとか。あと感覚的に、自分が彼氏の感覚によっていくことはあっても逆はあんまりないように感じるから寂しいのかなとか。実際のところは分からない。ずっと一緒にいるから、お互いにいろんな場面で刺激や影響を受けあってると思うけどそれが自分ほど目に見える範囲に表れてないのかもしれない。そもそも違う人間なんだから違って当たり前でそれでいいはずなのだ。そんなことを考えて、どこまでも張り合おうとしている可愛げのない自分がいることに気づいてしまう。そしてそんな自分を持て余す。

自分が持て余しているふがいない自分、目を背けたい自分を本の中の大人の女性たちが背中で励ましてくれる。

道ならぬ恋も、飽き飽きする気持ちも、思い通りにいかないことも誰だってあるのよ。そんな時も自分が素敵だと思える自分でいたらちょっと勇気が出るでしょ?って言われてる気分になる。若い時が1番いいって思ってる?若いとか若くないとかじゃないの。着飾りすぎず捨てすぎない、等身大の自分が素敵に見えることが大事なの。って教えてくれる。 

肩の力が抜ける。自分に素直な気持ちで向き合えたらいいかなって思える。

お洒落な彼氏に似合う服選んでよって言ってみようかな。最近こんな服が好きなんだって話してみようかな。ちょっと前向きになれる。

自分が思い描いてる理想の自分になれることはきっと一生ない。ちゃんと近づいていたとしても、理想は日々アップデートされていくし、それに合わせて悩みも増えていく。

じゃあこんなふうに考えてみたら?未来の自分を満足させられないなら、今の自分を満足させればいいじゃない。今の自分が1番大事でしょ?と背中を押されて本を閉じる。そんな感じ。

「1人で生きていく」ってほど強くはなれないけど、「誰かがいなきゃ生きていけない」ってほど弱くなるつもりもない。そんな柔らかさと凛々しさが自分を包み込んでくれる1冊。

(読了日:2022年2月24日)

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