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【観劇レポ】ロンドン National Theatre 『 The Crucible(るつぼ)』


ロンドンに1年間留学中の女子大生です🇬🇧

先日、National Theatre にてストレートプレイの『The Crucible』を観ました。これは以前の記事でも触れた、舞台の授業の課題のお芝居です。授業で学んだ National Theatre の役割についても触れながら、感想を述べます。



作品について

『The Crucible』は、『るつぼ』という戯曲を原作とした、1996年のアメリカの映画を舞台化したもののようです。魔女狩りのお話です。
以下、映画のあらすじです。

映画も観たことがあるのですが、かなり忠実に再現されていたと感じます。


劇場について

National Theatre は、テムズ川の対岸の Waterlooという地域にあります。
建物の中にはレストランやカフェ、ギフトショップの他、 Olivia Theatre、Lyttelton Theatre、Dorfman Theatre の3つの劇場があり、キャパや構造が異なります。それら全てで、約1ヶ月スパンの入れ替わりで、ミュージカルやストレートプレイ、様々な演目が上演されています。劇場固定のロングラン公演が多いロンドンでは珍しく、日本の形式に似ていますね。
今回訪れたのは、Olivia Theatre。キャパは3つで最大の1150席だそうです。
客席は2階まであり、舞台を中心に扇型のような構造になっています。
私は1階の最後列でしたが、段がしっかりあるので見やすかったです。


その名の通り国立劇場です。Commercial Theatre というのが、利益を出すことを目的とした商業劇場なのですが、国立劇場は、Subsidized Theatre という、利益よりも演目の上演を目的とした、出資を受けている劇場です。

感激したのが、緞帳。
と言っても所謂緞帳ではなく、水のカーテンなんです。下の写真の通り、舞台をコの字型に囲むようにして、上部から水が落ちて来ます。
視覚的にも動きがあり、聴覚的にも水が床を打つ音がザーザーと鳴っており、普段は大して気に留めない緞帳が存在感を放っていました。
緞帳が上がる(水が止まる)ときに、特に強く水が床をざぁぁって打ち付けるのも印象的でした。少し工夫をするだけでこんな変わるのか、と感動でした。
ただ、水が客席に跳ねない工夫や音響・照明機材にかからない工夫、床がかびない工夫、ポンプの形式や湿度管理等々きっと大変なこと沢山ですよね。


舞台の構造も他とは違い、面白かったです。
普通捌け口は上下の2ヶ所ですが、今回は舞台の奥に1ヶ所でした。基本そこは暗いので、登場の時は徐々に姿が見え、捌ける時はフェードアウトする感じで、自然でした。
また、舞台自体も正方形なんです。客席が扇型だと前述したのですが、そのため客席に面する舞台の辺が3辺(コの字型)です。かつ、音響なのか照明なのか水を出すためかわかりませんが、舞台の上に、客席のよりも1段階低い屋根的なのが付いています。言葉で説明難しいので下の写真参照です。
それらが相まって、客席から舞台がぽんっと浮き上がっている印象を与えます。少しの違いでこんなに印象が違うのか、第2弾です。
ちなみに、このような舞台は Thrust stage と言います。最も馴染み深く大劇場に多い、舞台を囲む枠 (プロセニアムアーチ) のある舞台は、Proscenium stage です。


感想

個人的に劇場 (上述の緞帳、舞台構造) は好きだったのですが、作品自体はまあまあ。

第一に、前の記事にも書きましたが、大勢のキャストさんによるストプレって難しい。映画やドラマのように表情が拡大されることもなければ、ミュージカルのように心情を吐露する歌もない。場面転換が少ないほどに、単調さを感じやすくなってしまうと、個人的には思っています。舞台が遠くてキャストさんの表情が見えないときの、得られる情報がかなり限られる。小さな所作や空気感からシーンを読み取り、台詞のトーンや音量、イントネーション諸々から感情を察知することが必要です。
もちろん、ストプレにも良いところ沢山あります。

第二に、題材に共感ができない。魔女狩りや悪魔、呪いの概念って現代、特に日本人とは無縁。深夜に女の子たちが集まって呪いのダンス…?貢ぎ物…?鶏の血を飲む…?急に昏睡状態…?頭の中がはてなでいっぱいでした。
だから、共感もしにくい。呪いを過度に恐れて悪魔と契約を結んだ人を大慌てで探すのも、呪いのダンスを必死に隠そうとするのも、なんでそんなに深刻に捉える必要があるんだろう…と思ってしまいました。
無宗教が多い日本人にとって、このような宗教の概念を大前提としてその中心を突いてくる題材のお話は理解し難いのかもしれません。

で、結局全ての根源にあるのが、過去の不倫関係の隠蔽なんです。散々魔女が悪魔がどうこう騒いでおいて、結局恋愛関係かい。
更に言うならば、全て1人の女の子、アビゲイルによって引き起こされています。呪いも、隠蔽も、魔女裁判も。1少女の思いが強烈で、度を過ぎていたがために、大勢を巻き込んで大ごとにしてしまうんです。影響力すごい。

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他方で、そのアビゲイルの演技には引き込まれました。ヒステリックになるシーンが多いのですが、狂ったように喚き叫ぶ様子が強く印象に残っています。他の女の子たちの演技のお陰もあり、舞台からカオスな空気が流れ出ていました。彼女の言動で舞台全体の雰囲気をガラッと変え得る演技でした。
今書きながら知ったのですが、この女優さん、ネットフリックスドラマ「ザ・クラウン」でアン王女を演じられていた方なんですね。
他にも、全体的にキャストさんの演技力が光る作品でした。

それ以外にも、全体的に「不穏」の演出が上手でした。照明だったり、大勢の女の子を使った視覚的演出だったり、彼女たちの歌声だったり。
女の子大勢が同じピンク色のワンピースを着て、一気に登場したり、歌ったり、叫んだりするとやはりインパクトありますよね。


総じて

舞台の使い方の可能性を様々な観点で教えてくれる観劇でした。
作品の芯に触れて心を震わせるほどの知識と理解力があいにく私にはなかったのですが、だからこそ感じること、学ぶこともあり、経験として行って良かったなと思います。
機会があれば、National Theatre の他の劇場で他の作品も観たいです!


※見出し画像は『The Crusible』公式HPより


作品情報

Date: 13 October 2022 7:30 PM
Venue: Olivia Theatre, National Theatre
Cast: 
   John Proctor - Brendan Cowell
   Abigail Williams - Erin Doherty
   Elizabeth Proctor - Eileen Walsh
   Mary Warren - Eileen Walsh
Creatives:
   Playwright - Arthur Miller
   Director - Lyndsey Turner
   Intimacy Director - Louise Kempton

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