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綿矢りさ〈嫌いなら呼ぶなよ〉で思い出した〈グルグルなら休めよ〉

株や経済、世界情勢、スマホ脳云々などの実用書ばかりを読み、ほぼ小説を読まない夫が突然、綿矢りさの新刊を買ってきた。

「面白いって書いてる記事があったから」だそう。

「眼帯のミニーマウス」
カワイイ命女子VS.整形ポリス。

「神田タ」
YoutuberVS.粘着ファン。

「嫌いなら呼ぶなよ」
不倫男VS.妻の女友だち。

「老は害で若も輩」
綿矢VS.ライターVS.編集者。

整形、不倫、SNS、老害…心に潜む“明るすぎる闇”に迫る!

紀伊國屋書店オンライン「内容説明」より

読むとすぐに売っぱらってしまう夫に借りたので、読んでいたエッセイを一旦閉じ、一日で読み終えた。

確かに、面白かった。
…かったけども。
やっぱり私が読みたいものではないかなぁ。
こんな世界があるのだな、というのを知れたのは良しとしても。

巷でよくニュースになる、いわゆる“イタい”人物。
何が人をそのような行動に駆り立てるのか、その心理状態がつぶさに描かれているので、「彼らにも一応理由があるのか、なるほどなぁ」と納得してしまう部分もある。
でも、やっぱり理解はできない。

韓国のことわざに
열 길 물 속은 알아도 한 길 사람 속은 모른다ヨr キr ムrソグン アラド ハンキr サラm ソグン モルンダ
10尋(18m)の水の底は見通せても、1尋(1.8m)の人の底(心)は分からない

つまり「人の心はとにかくわからないものだ」というものがあるけど、自分以外の人の心をわかろうなんてこと自体が無理なことなのかもしれない。
と思った次第である。

一つ目のエピソード「眼帯のミニーマウス」は、メイクをするように美容整形の施術を受ける(構ってちゃん的な)女性が主人公になっている。
私のうら若き頃は、まだ今ほど整形が一般的でもオープンなものでもなかったせいもあるのかもしれないけど、私の周りには(知っている限り)この主人公の女性のような人はいなかった。

…と思ったけど、一つだけ思い出した。

韓国に語学留学中にいくつかのバイトを経験した。
看護師資格は海外では使えないけど、医療用語の勉強になるかも…とニ箇所のクリニックで働いた。
日本語パンフレットや日本人向け検診結果の翻訳が主な仕事だった。

一箇所目は、在韓日本人が多く訪れる検診センター。ここはごく普通のところだった。
韓国の有名人や野球選手がいっぱい来ていたみたいだけど、正直ほとんど誰が誰だかよくわからなかった。

ニ箇所目は、大人気ドラマ「梨泰院クラス」の舞台、外国人の多く住む梨泰院(イテウォン)にある美容整形外科クリニックだった。
雑居ビルのワンフロアにそのクリニックの受付から待合室、診察室、手術室まですべての施設が詰め込まれていて、これまで日本では中規模〜大規模な病院しか知らなかった私は、そんなボロビルにクリーンであるべき手術室があることにまず衝撃を受けた。

そして、もう一つびっくりさせられたのは、受付のすぐ横のガラス張りのブースではタトゥーの除去も行っていて、毎日タトゥーだらけの人々がそのガラスの中に吸い込まれて行っては、レーザーで焼かれるのが見えていた、ということだった。
(記憶が曖昧だが、パーテーションみたいのはあったような、なかったような。でも何度となく「若気の至りなのかしら。痛そうだなぁ。」と思っていたということは、何度も目撃していたんだと思う。)

それよりさらにギョッとしたのは、出勤初日に挨拶回りをしていると、手術室から顔に包帯がグルグル巻かれた看護師が「アンニョンハセヨ〜」と出てきたことだった。

グルグルと言っても、なにも皆様が想像するほどグルグルではないのだけれど、それでも顎から頬を通って頭頂部へ、そこからまた顎へ、という感じでグルグルと何重にも縦方向に包帯が巻かれている姿だった。

私の目は文字通り点になっていたんだと思う。
「あぁ、驚いたでしょう?何日か前に二重顎の脂肪吸引とエラの手術をしたんです。まだ腫れも引かないし、喋りにくいんですよ〜。アハアハ、エヘエヘ。」とニコニコしている。

「タダ、もしくは職員価格でやってもらえるんですよ〜」
と聞いてもいない情報までゲット。

「オンニは、おでこにフィラー(ヒアルロン酸)を入れて丸みを付けたらもっとキレイになると思う!」
と、整形(案)まで提案される。
 ※オンニとは、実姉や血は繋がってないけど親しみのある年上の女性に使う呼称。

タジタジでその場を後にし、事務の女の子と受付に戻り呼吸を整える。
「びっくりしました?」とにっこり笑うその子のエクボが可愛くて、「うん、ちょっとね(笑)それはそうと、あなたのエクボ、可愛いね」と言うと、返ってきた言葉にひっくり返りそうになる。

「このエクボ、中2のときに作ったんです」

エ ク ボ は 作 れ る の?

なんのはなしですか

口の中から糸を通して、外(頬)に突き刺し、縫い終わりにたま結びを作る要領(?)で「人工エクボ」を作るそうな。

人生いろいろ、人間いろいろを知った27歳の夏。

理解できない人のことを異星人みたいに見てしまうことがあるけど、これってほんとに自分本位なことなのかも。
私も誰かから見たら、きっと異星人。



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