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スマートにフェンスを越す

太陽は限りなく金に近い橙の柔らかい色に空を染めながら川の上流に向かって沈みつつあった。

いつものジョギングコースではその夕日に向かって走っていくのだけど、今日は新しいコースを見つけようと思い立って普段とは違う道を走った。

植物園の近くでは湿った土の匂いが夜の冷気にのって広がっていた。

見通す限りフェンスに囲まれた園の中はジョギング・コースにこそふさわしい穏やかな起伏と美しい花道が続いている。

閉園時間に人影はなくて、どれほどフェンスを飛び越えて中に入ろうかと思ったけど、もちろんやめておいた。

映画ウエストサイドストーリーに出てくる若者くらい格好よくスマートにフェンスを飛び越したかったけど、思いとどまった。

いつもサングラスをかけて帽子をかぶって走る。

マスクをつけると変質者みたいになってしまうので、できればマスクをつけずに走りたい。

「ふん、こんなモノつけていられるかってんだ」というような反骨芯もなく汗で湿ったマスクが重くてずり落ちてくるのを手で押さえて走ります。

私はいつから聞き分けのいい人間になったのか。

サッカー選手をあきらめたときか。

デザイナーの道をあきらめたときか。

飼ってた犬が死んだときか。

結婚したときか。

鏡をみるのをやめたときか。

よくわかりませんがジェット団にもシャーク団にも、もはや憧れていない。

植物園のフェンス沿いを走りながら、生意気であることについて考えます。

そんなこといちいち考えてるうちは、スマートに何かを飛び越えたりできないのかもしれない。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。