インド物語−アグラ⑩-

墓地観光で成り立つアグラの街を、車で一日案内してくれるという二人組がいた。

ガイドブックに載っていないところに行ってみたくてその車に乗った。夕暮れまでにデリー行きのバス停まで送ってもらう約束も取り付けた。

そういうわけで次々に土産物屋に運ばれた私は、飛んで火にいる夏の虫だった。

最期に案内された工場は絨毯を製作していて、ことさら熱く燃える業火のようで主人の押し売りの文句はいつまでもしつこく私にまとわりついた。

「わかった、買うよ」って言うまで帰してくれないなと覚悟した時、約束のバスに間に合わないと報酬がもらえないと考えた(であろう)二人組に手を引かれ救い出されるようにしてその場を去った。

それから車はアグラの山道を信じられないスピードで駆け抜けた。

「今日は一日大変な目にあったな」と言う二人組に「君たちのせいだけどね」と応えた私の荒んだ心も一瞬で縮みあがるほど、車は山中をフルスロットルで飛ばしていた。

ガタガタ揺れる車中から見えた遠い向こうの稜線が薄い黄金色に輝いていて死者の国への入り口みたいに見えた。

お母さん、私、ここで死ぬかもしれません。

それから一時間後に死者の街アグラから脱出した。二人組は報酬をバッチリ上乗せして要求した。

帰り道にあの稜線のどこかから落ちて死んでしまえと思いながら、ぐったりして当初の約束通りの金額だけを支払った。

ひどいインド訛りの抗議の声を後ろにフラフラとバスに乗った。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。