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むるめ辞典

■月光

[読]げっこう

月の光

[例文]
頭からかぶったシャワーの水が次第に体に流れて全身を浸していくように月の光がベランダに留まっていた闇の影を白い光で洗い流し明るく浸した。外に出てみると月にかかっていた雲がすごいスピードで逃げるように流れていくのが見えた。

それにしても大きい月だったので薄い金糸の刺す輝きの隙間から月の地表が見えそうなくらい近くに感じた。

人間はあそこに降り立ったんだよな、と思い至って何か痕跡が見えないかと目を凝らしてみた。

そもそも人は何しに月に行ったんだっけ?それがわかれば痕跡も探しやすいのにな、と考えたけど思い浮かんだのはアメリカの宇宙飛行士が家族写真を月に置いてきたという逸話だけだった。

哀れな雲が泥棒のように逃げていった方向から流れ星が二つ月に向かって飛んで行った。珍しいこともあるもんだと思っていたら、続けて三つ四つと琥珀色の尾を引いた流星が月の中に消えていった。その様子をしばらくみていたら、全部で十八個の光が月に呑み込まれていった。

突然のことであったし、これが一体何を意味するのか私には全く分からなかったけど宇宙飛行士の気の毒な家族写真はもう残っていないだろうなという気がした。


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