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【連載詩集】No.15 いつか「さよなら」がくるということ。

 ぼくは今、

 猫と暮らしている。


 朝起きると、

 とりあえず、

 猫に挨拶をする。


「おはよう」


 猫はだいたい

 仕事部屋にいるので、

 ぼくが作業を中断して、

 部屋から出るときは、

 声をかけるようにしている。


「ちょっとトイレに行ってくるね」

「おなかすいたからご飯食べるね」

「お風呂入ってくるね」


 別に、猫から何か

 特別な反応があるわけではない。


 こちらを見ていたり、

「にゃあ」と言ってみたり、

 あとをついてきたり、

 その程度のことだ。



 そんなふうにして、

 今日も変わらず過ごしていた。



 ひさしぶりに、

 急ぎの仕事が落ち着き、

 ぼくは、いつもより

 余裕のある心構えだった。



 それで、

 いつもあまり言わないようなことを、

 ちょっと猫に言ってみることにした。



「へいわだねえ」

「しあわせだねえ」

「ずっとこんな時間が

 つづくといいねえ」



 そんなことを言いながら、

 猫を撫でていたら、

 なんだか無性に、

 かなしくなってしまった。



 ——ああ、

 いつか「さよなら」を

 言わなきゃいけないときも、

 来るんだなあ。




 ふと

 そんなふうに

 思ったからだ。




 ぼくたちは

 普段は忘れているけれど、

 いつか来る「さよなら」を

 こころのどこかに抱えて生きている。




 ——でも、

 生きるとは、つまり

 そういうことなのかもしれないね。




 いつか来る

「さよなら」のかなしさこそが、

 生きるということのあかしなんだ。




 そんなことを、

 考えながら、

 ぎゅぎゅっと、

 少し力を込めて、

 猫を撫でた。



 猫はちょっと迷惑そうに、

「にゃあ」とひとなきした。



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