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うたのおへや

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わたし 村嵜千草の詩をまとめています
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#詩作

怪物

怪物

時々に襲い来るそれは
念慮などと奥ゆかしい表現に足らず

いくつもの足を物凄い勢いで這わせて
こちらへ駆けてくるのだ
怪物のようだと思う

またしかしそれを生み出している自分も
とんと可笑しな怪物だと思う

どうせ生きてゆくのに
怪物はしつこく飽き足らず迫り来る

…………………………
気づく気づかぬに関わらず、
どの心にも棲んでいるのだと思います、怪物は。

いもうと

いもうと

おねえちゃん、おねえちゃん、
だいすきだよ

おねえちゃん、おねえちゃん、
大すきだよ

お姉ちゃん、わたし
貴方の妹で幸せよ

どんな貴方もわたしの姉だって
気づいてほしいのよ

頼らせてね 生まれたその時から側にあった貴方
頼ってね わたしの一から百までを見てきた貴方

大好きよ それしか出てこないの

おねえちゃん

おねえちゃん

がんばりやさんだね
たよりにしてるよ

ふふ うれしいんだ

キンキュウジタイにおねえちゃんがいてくれると助かるよ
いもうとちゃんのことよろしくね

うん もちろん、まかせてよ
だっておねえちゃんだから

雨がざーざーふったって
お母さんがシュッチョウのときだって
地面がぐらぐらゆれたって

もちろん、まかせてよ
いもうとをぎゅってしてあげる
ごはん、つくってあげる
お片付け、みんなの分もがんばる

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2月の雪 ( 朗読・伴奏 )

2月の雪 ( 朗読・伴奏 )

もう何度目でしょう
いつもいつも音は無く
あるものを無かったみたいに

喜ばれたとて 疎まれたとて
なんにも気にも留めない風で

あなたを羨む私を
仲間に入れてはくれませんか

塵として埃として
冷たくなって重たくなって
舞って流れてどこかへ飛んで

私の元へも集まって
私の形にかたまって
境目のないように
誰にも分からぬように

あなたを羨む私を
共に溶かしてはくれませんか

儚くなくても美しく

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今

明日にも一昨日にも
今日のわたしはいないし

1秒前にも1秒後にも
今のわたしは生きてない

今、今だけここに立つ

今の足跡が 筆先が 追想が
いつか来るイマのわたしに寄り添うだろう
たまに助けもするだろう

忘れたり 思い出したりしながら
今を塗り重ねていく

あの頃のイマにいたわたしへ
居てくれてありがとう

いつかのイマにいるわたしへ
今のわたしのこと 忘れててもいいや 
ちゃんと居るから

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いつも居るかたち

いつも居るかたち

どうしても 何にも見えないのだ
たとえが 浮かばないのだ

人の姿にも 動物にも 似ず
ただ そこにある

物も言わず 靄を振り払うこともなく
ただ ぽっかりと そこにいる

間抜け でこぼこ 照れ屋さん

聡明 凛然 頑張り屋さん

何かに見えて 何にも見えない

それだけのことが こんなにも人間を狂わせる
こんなにも私に押し寄せる

紛れるメール

紛れるメール

「父が他界しました。」

いつもと変わらない音と光に揺られて
業務連絡のように届いた。
お遣いを済ませました、のような
今晩はカレーにします、のような。

「追って詳しい日程を連絡します。」

流れ作業のように
雲が流れるように
大切なはずの人が死んだ。

葬式にも通夜にも行かなかった。
行けなかった。
大切なはずの人はとうに燃えて灰になった。
見送れもしなかった。

子どもみたいに屈託のない笑顔

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高い空を見上げて

高い空を見上げて

心がきゅうと泣くような
大手を広げて清々しいような

目の眩むような
果てなく心細いような

ひょろりと一本 化粧の虚しいような
山道をスキップしたいような

土の匂いにとろけるような
つめたく突き放されるような

こびとのおどるような
しとどに袖の濡れるような

体の表面に秋の真ん中の地球を感じて
高い空を眺めながら

No.34    (※「34」改)

No.34 (※「34」改)

さよなら世界 ありがとわたし
短いなんて知らないよ 十分すぎる長さだよ

ありがと世界 さよならわたし
溶けて溶けて溶けゆくの 
土になる 水になる 大地へ還る

ありがと世界 おはようわたし
なんて なんて 広すぎて 
なんて なんて 狭いのかしら

おはよう世界 ありがとわたし
眩しいだとか 気持ちいいだとか いったん忘れていいんだよ

「揺れるカーテン 温かいスープの匂い
ふわふわのタオル 

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「おいしい」

「おいしい」

夕どきに母が耳鼻科へ行きました。
耳の詰まりが気になるからと、出かけてゆきました。

私は台所で母を見送りました。

コンソメスープと、夏野菜のサラダを作りました。
まだ母の帰りはありません。
ひとりそそくさと食べることにいたしました。

「おいしい〜!」

我ながら腹も心も満たされる食事ができたと、私を褒めました。

私の食事が終わるころ、母が帰ってきました。
ぐったりとひどく疲れた様子でした。

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電話

電話

神妙な面持ちと 固く握られた拳
それから俯いて はい、はい、と頷くぼさぼさ頭

僕はそれをじっと見てる さっきからずっと見てる

僕には関係ないかもしれない
父さんにもじいちゃんにも関係ないかもしれない

でも

おめでとう

おめでとう

と、素直に言えない私を

どうか見て見ぬふりをして
どうか放っておいていて

どうか、話を聞いて 頷いて

隣に座って手を握りたい

隣に座って手を握りたい

歩いても 歩いても 歩いても
辿り着けないところにあなたがいる

考えても 考えても 考えても
あなたの大きなその荷物に手が届かない

寄り添いたいと、思う気持ちが邪魔をする
そばに居たいと、思うほどに離れゆく

いつか やわかいそのこころを、少し覗かせてくれますか

駄目ね わたしは 待ち切れずに また…

気を悪くさせたらごめんなさい
けれどあなたがすきなんだもの

知りたいと 共感したいと詰

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