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#物語

story アズと子ヤギ〜本当の気持ち〜

story アズと子ヤギ〜本当の気持ち〜

アズは時々
牧草地に行って
子ヤギが群れの仲間と
過ごす様子を見ていた

子ヤギはアズに気がつくと
そばへ寄ってくることもあれば
草を食んだままのことや
仲間のそばで佇んだまま
アズを見つめるだけのこともあった

アズはお父さんの言葉を
聞いてから

子ヤギが幸せなら
それで良いと思うように
なった

私たちは私たちの
楽しかった思い出が
あるものね

子ヤギはアズの
そんな気持ちが
分かるのか

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story アズと子ヤギ〜不自由な右足〜

story アズと子ヤギ〜不自由な右足〜

アズはひとり牧草地にいた
膝に乗せて抱いているのは
母親を亡くしたヤギの子
唯一アズが心許せる友だち

アズは右足が不自由だった
歩き始めたばかりの頃
農作業中の母の元へ行こうとして
農耕用の車輪に踏まれた

小さなアズは家の中で
お昼寝をしているはずだったし
作業場に近づいても
誰の目にも入らず
気づかれなかった

突然の鳴き声で
大人たちは青くなった 
急いで町医者に
診てもらったけれど
右足

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story 空の騎士

story 空の騎士

ふたりの騎士が矢を強く引き絞り遠く向かい合っている

流れる風が草原を緑の海原にして日差しがそれを淡く波立たせる

ふたり間には深紅の旗を高くかざした兵士がひとり

今まさにその旗を振り下ろそうとしたその刹那

一方の騎士がその旗めがけて鋭く矢を射放った

ヒュオと矢は鳴きながら兵士から深紅の旗を奪い攫った

と同時に向こうからも射られた矢が旗を射った騎士のマントを引き裂きながら流れ去る

戦は終

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story やさしい庭

story やさしい庭

草原が広がっている

遠くの樹々が
風にそよいで
心地よく
葉ずれの音を立てている

誰もいない草原に
可憐な花が揺れている

私はようやく
水に戻った魚のように
ほっとして
ひとり草に腰を下ろした

ここはなんて
静かだろう

空の色は淡く
やわらかな光が
小さな粒のように
舞っている

ことばは
ここでは
あの光の粒のように
音もなく

ただ空の色になり
肌をくすぐる
葉のように

私のそばに

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story 記憶

story 記憶

沈みゆく太陽の中に
黒い影がある

岬の向こうは紺碧の大海原

波は黄金色に荒くうねり
めらめらと太陽を飲み込んでいる

吹き荒れる風は
長く伸びた髪をもて遊ぶように
乱し続けた

しっかりした体躯
肌は日に焼けて艶がかっている

破れかけた粗末な布を
その身体に巻きつけて
何事か太陽に向かって叫んでいる

岸壁の上で両の脚を踏ん張り
必死に声をあげている

なぜなんだ
なぜ私は
この様に生きてい

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story 農耕

story 農耕

梅が散り始めると
桜が一斉に満開になった

数日前に堆肥を施した畑に
畝を立てる

等間隔に穴を掘り
種芋を入れ土を被せる

鶯にひばり
向こうの方では
やまばとが鳴いている

風に揺れる菜の花

雪解けの山肌に
もうすぐ残雪の描く
白馬が駆ける

それまでに
田おこしをして
苗を育てる

掘り払いを済ませた用水路に
水が引かれると代掻きが始まる

田んぼは一面湖になり
空を映し出す

そうして田

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story 捨てることのできるひと

story 捨てることのできるひと

そのひとは
時々ガーっと片付けたくなるそうだ

しかも
跡形もなく消えてしまうことに
自分でも驚くほど未練がないらしい

あーすっきり
これでまた新しく始められる

なんて
あっけらかんとしたもんだ

そのひと曰く
納得してればそれでいい

そういうことらしい

story 回り道

story 回り道

ムダなことなんて
ひとつもない
なんて言いながら
間違いのない
最短コースばかり
みつけようとしている…

でもね

今日こうして
あなたと一緒に
山登りをしみて
試行錯誤も
悪くないなって
思ったの

時々足を止めて
振り返ったり
木々や草花の様子を
眺めてみたり…

この景色に
思いを馳せているうちに

今ここで足を止めなかったら
今ここで躓かなかったら
気づけなかったことが
たくさんあったな

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story 神さまの答え

story 神さまの答え

神さまは隠された

ある答えを…

必ず見つけると確信されて

答えはひとつ

ただその解き方はひとつではなく
幾通りにもできる

試してご覧

そしてそれを楽しんでご覧

お前の答えを
私も楽しみにしている

story 陰影

story 陰影

ーあるひとの言葉ー

光だけでは光と分からぬ
影があるから光と分かる

逆もまた然り

陰影が刻まれてこそ
人も輝くというものだ…

story 夢と陰謀

story 夢と陰謀

オレだって
オレだっていつか…

あ、いいこと考えた!
裏をかいて死角をついて
まだ誰も気づいていない
ことをしよう!

ぐふふ…
世界はオレの思いのままだ!

おーい!!
そこのひとー!!
あっ、
あ〜あ…
あのひと気づいてなかったのかなぁ…

時既に遅し
呼びかけも虚しく
そのひとは足元にあいていた
深い穴へと落ちていった

story 正体

story 正体

お前は誰だ…

面白い小僧だ
知りたいか…

私はお前だ
お前がお前だと思っている"もの"だ

お前がお前だと思っているのものは
実はお前ではなく全て私だ

気づいたことは褒めてやる
だが余計なことだ

知らなくても良いことだ
知らないままの方が良い

もがこうが笑おうが
お前はお前を生きれば良いのだ

さぁ
もう眠れ
そして忘れろ
目覚めた時は
もとのお前になっている

story 泥棒

story 泥棒

男はさも当然のように
私が持っていたハサミを奪った

私がそれに気づくと…

なんだよ
俺にはこの後大事な仕事があるんだ
ハサミのひとつくらい良いだろ

そう言った

私は慌てて奪い返すと
続けて男の手を取り
改めてハサミを握らせた

握らせて
その手をさらに強く握った

ハサミはまた買えます
でもあなたの人生は一度きりです

奪われたんじゃなく
くれてやったのだ

それは
悔し紛れだったかもしれ

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story 棲家

story 棲家

ここはね、癒しなんだ

憩いの場

ボクらだけの
場所じゃないんだよ

見てごらん

感じてごらん

鳥も虫も動物も
目に見えないほどの
小さなものたちも

みんなここで
命を育んでいるだろ

同じ雨に打たれて
同じ風に吹かれて
踏ん張っている

そして少しずつ
分け合っているんだ

ここに来るなって
言えると思うかい?

柵なんか立てたって
なんの意味があるんだろう

食べ物が必要な時に
食べ物

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