story 空の騎士
ふたりの騎士が矢を強く引き絞り遠く向かい合っている
流れる風が草原を緑の海原にして日差しがそれを淡く波立たせる
ふたり間には深紅の旗を高くかざした兵士がひとり
今まさにその旗を振り下ろそうとしたその刹那
一方の騎士がその旗めがけて鋭く矢を射放った
ヒュオと矢は鳴きながら兵士から深紅の旗を奪い攫った
と同時に向こうからも射られた矢が旗を射った騎士のマントを引き裂きながら流れ去る
戦は終わりだ…
旗を射った騎士が言った
俺たちの命はこんな一本の矢に乗せる程軽くない
見ろよ
空はこんなにも青く美しいじゃないか
ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。