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story アズと子ヤギ〜子ヤギの幸せ〜

牧草地でヤギたちは
思い思いに草を食んでいた

子ヤギは生まれたばかりの頃より
だいぶ丈夫になった

アズは母ヤギの代わりに
ミルクを飲ませたり
子ヤギの世話をした

子ヤギの世話は
お父さんも手伝ってくれた

アズは子ヤギが自分だけの
ものであって欲しいと
思うようになった

小さな体
小さな足

うずくまると
アズの膝の中に
すっぽりとおさまった

子ヤギもアズに
なついているようだった

アズは
子ヤギのために
自分がいるんだと
思った

けれど子ヤギは
少しずつ

群れの方へ
興味を示すようになった

アズに抱かれているのを
嫌がって

自分から駆け出す
こともあった

そんな時アズは
もう自分は必要ないのだと
寂しいような
心が空っぽになる感じがした

私がいる理由て
なんだろう

お母さんは
私がいても
嬉しそうじゃない

唯一の友だち
子ヤギも
アズを離れていこうとする

アズ…
子ヤギには
子ヤギの生きる場所がある

お父さんが言った

子ヤギもいつか
大人のヤギに
なるんだよ

そして
自分の家族を
見つけていくんだ

けれどそれは
君を忘れることじゃない

君はこれからも
子ヤギの幸せを
願うことが
できるだろう

子ヤギもきっと同じだと
父さんは思っているよ


ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。