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story アズと子ヤギ〜本当の気持ち〜

アズは時々
牧草地に行って
子ヤギが群れの仲間と
過ごす様子を見ていた

子ヤギはアズに気がつくと
そばへ寄ってくることもあれば
草を食んだままのことや
仲間のそばで佇んだまま
アズを見つめるだけのこともあった

アズはお父さんの言葉を
聞いてから

子ヤギが幸せなら
それで良いと思うように
なった

私たちは私たちの
楽しかった思い出が
あるものね

それはこの先も
変わらない

子ヤギはアズの
そんな気持ちが
分かるのか

何をするともなく
アズの隣で日向ぼっこ
することもあった

アズは自分の気持ちに
気づかれてしまったようで
恥ずかしかったけれど
たまらなく嬉しくもあった

そんな時
アズの心は慰められた

お母さんも
同じ気持ちだろうか…

お母さん…

アズは家に帰ると
お母さんの背中に
呼びかけた

アズ…

お母さんが
振り向いた

私はお母さんを
責めていたんじゃない

アズは自分の心の声を
聴いている

ごめんね…
私怖かったの

アズ…
謝るのは
お母さんの方…

お母さんは
あなたから足の自由を
奪ってしまった

あなたの未来も
あなたの友だちも
あなたの笑顔も

違う…
それは違うよ

お母さん
私は足のことで
辛いことなんて何もない

私が辛いのは
お母さんが
笑ってないことよ…

そこまで言うと
アズは泣いた

私はお母さんを
責めていたんじゃないの

お母さん…

張り詰めていたものが
ほどけていくように
何かが開かれていく

アズ…

お母さんは
アズを抱きしめた

ごめんね
私はあなたを
知らず知らず
苦しめていたのね

許して…

お母さん
お母さん…

もう私のことで
苦しまないで

私はかわいそうでもないし
辛いことなんてないんだから

お母さん

私はずっと
こうして素直に
なりたかった

そして

お母さんに
甘えたかった

だけど

怖かったの
抱きついた時に
自分が受け入れて
もらえないかもしれないのが

そのせいで
お母さんに距離を
置いていたのは
私なの

心の声が
言葉になって
紡がれていく

気がつくとお父さんがいた

お父さんは
お母さんと私を
包み込むように抱きしめた

子ヤギは
自分の足で歩いて行った

私も歩けるよ
早くはないけれど
遠くまでは行けないけれど

見守っていて
お母さん

私もお母さんの幸せを
願っているから


ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。