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レタスのためのふかふかベッド ~ 世界一美味しいオレゴンの青空レストラン 4

今回のテーマは土。グラスルーツガーデンのマネージャーのメリーが一番こだわっていたのは土だ。土が良くなければ美味しい野菜はできない。すべては土から始まる。私たち親子はガーデンで土と深く向き合う時間をたくさん過ごした。

2月、オレゴン州ではクロッカスの花が咲き春の兆しが感じられる頃、グラスルーツガーデンではガーデンベッドの準備に忙しくなる。ここでは畝のことをガーデンベッドと呼ぶ。オレゴン州は秋から冬にかけて雨季となり毎日のように冷たい雨が降る。冬は雪や氷に閉ざされることもあり畑の土は固まってしまう。収穫できる野菜の種類は限られ訪れるボランティアの数もまばらだ。しかし、春の訪れとともにガーデンは一気に賑わいを取り戻す。おおぜいのボランティアが、土を掘り起こし腐葉土を混ぜ込む作業を手伝うために戻って来る。

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娘のミンモも週末は土を掘り起こす作業を頑張った。シャベルの刃に両足でピョンと飛び乗って刃を土に深く切り込ませてから器用に掘り返し、空気を入れて土をほぐしていく。スコップ組がこの作業を繰り返している間に手押し車組は腐葉土をベッドのそばに次々に運び込む。ミンモはその腐葉土をどんどんスコップで土に混ぜ込んでいく。冬眠していた土が目を覚ます瞬間だ。大きいミミズさんも時々顔を出す。仕上げにベッドの表面をレイクで平らに均していく作業はミンモのお気に入りだった。

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3月にはソイル・アメンドメント(soil amendment)と呼ばれる土壌改良が始まる。この時期は、ボランティアを対象にメリーによる土壌改良レッスンが何度も行われる。「アメンドメントって言葉、聞いたことあるよね?そう、憲法改正の改正という意味でよく使う言葉だよね。今日は憲法じゃなくて土を改良していく作業を覚えてもらいます」というセリフから毎回レッスンが始まる。

メリーは、まず石灰、リン、窒素、昆布の4種類の粉末状の肥料を観察させ、これらの栄養素が植物の生長にどう影響するのか説明する。ウグイス色をした昆布の粉末肥料は品薄で高価なので必要な所に必要なだけ撒くよう念を押し、それを寄附してくれた企業への感謝の気持ちを共有することも忘れなかった。肥料はいつも頑丈な鍵のかかった小屋で大切に保管されていた。

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実際に肥料を土の上に撒く際は、姿勢や手の動きについても細かく指示が出た。風が吹いている時、ミンモが昆布の粉を仁王立ちで撒いていると常連ボランティアのジョイスが遠くから飛んできて、「かがんで!立ったまま撒くと粉が風に飛ばされてしまうから。昆布は高いんだよ!」と叫ぶ。風がある日、ジョイスは昆布の粉を立ったまま撒いている人を絶対に見逃さなかった。

小さい子どもたちも粉を撒くのを手伝った。白い石灰の粉は、土の表面が真っ白になるくらい撒くよう指示される。「わー、美味しそう!」石灰を撒いた後のガーデンベッドは粉砂糖のかかったティラミスのようだった。こうして4種類の粉末状の栄養素を撒いて苗を迎える準備を整えていく。

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ガーデンにはコンポスト(堆肥)レッスン場があった。ここにはダースベイダーと呼ばれる黒くて大きいプラスチック容器が並んでいる(写真下)。見ての通りスターウォーズに出てくるダースベイダー君みたいだ。この中に傷んだ野菜果物などの植物性の生ゴミが集められて堆肥にされる。生ゴミと腐葉土と紙を交互に重ね時間をかけて分解させるのだ。向かいには腐葉土の集積所がある。

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園児や学童が見学に来る時、メリーは必ずどのようにコンポストを作るか実践しながら説明した。子供たちがグローブをはめ、輪になって生ゴミと紙と腐葉土を混ぜる作業はいつも盛り上がった。何をしても楽しくてしかたのない年齢だからこそコンポスト体験は欠かせない。高校生にもなると、堆肥作りは面倒で臭いと顔をしかめて逃げ腰になる子もいる。

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ここにはミミズのコンポスト場もあり、ベテランのボランティアが湿度と温度を厳密に管理しミミズが一番喜ぶ環境を維持している。ミミズはふかふかの上質な堆肥を作ってくれる。一連のコンポスト講習を受けた後、私は自宅の庭にダース・ベーダ容器を設置して(写真下)堆肥作りに挑戦してみたが失敗に終わりちょっとしたトラウマになっている。中に入れた生ゴミにカビが生えて、蜘蛛の巣だらけになってしまったのだ。

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マスターガーデナーの資格を持つ専門家が、土の観察を含め、灌漑設備の保守管理を担当していた。1エーカーと広大な面積でのホースやスプリンクラーの管理には手間が掛かるが、設備面に詳しいボランティアらが工具を手に活躍していた。土づくりに欠かせないシャベルなどの道具もいい物がたくさん揃っていて丁寧に保管されている。使った人は、片付ける時に次の人が出しやすいように収納するようなルールが確立していた。効率的にボランティアの力を活用できるようなシステムが機能している点にはいつも感心させられた。 

「土はできるだけ素手で触ってね」と、いつもメリーが言っていた。手を守るために作業中はグローブを着けていることが多いが、土を素手で触るとストレスから解放されうつ病になりにくい体質になるという。私も土に触れて大学院の勉強で疲弊した脳を休ませた。みんなで力を合わせて用意したふかふかのガーデンベッドに両手を入れるとひんやりと柔らかい土が優しく包み込んでくれた。こんなベッドに入れるレタスの苗は最高に幸せだろうな。3月から4月にかけて、ガーデンはレタスの苗をベッドに植える作業で忙しくなる。(続く)

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