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本当の「経済改革」とは? ~町工場の社長さんに学んだこと~

1.ある社長さんとの面談

仕事で様々な中小企業を訪問させていただき、経営に関するご相談を承ることがあります。

社長さんは、様々な経営課題を抱えておられます。

収益性向上、人材育成(後継者問題)、売上拡大、新事業の開発・・・。

そこで話のきっかけとして、自分の会社が「お客様に選ばれる理由」を考えていただくことがあります。

「そんなの別にないよ。言われたものを作っているだけだから。」

そのように言われる社長さんも多いのですが、どの会社にも必ず何かしらあるものです。

お客様から「この会社から買いたいんだ」「ここのサービスを利用したいんだ」と思ってもらえるのはなぜか。

その理由は、製品そのものでなくとも、例えば発注・納品のプロセスが便利であったり、ちょっとしたノウハウであったり、社長さんや営業の方々の魅力であったりします。

それらも立派な会社の強みであり、会社の財産です。

そうして自社の強みと弱みをはっきりさせ、強みを伸ばしたり、弱みを補ったりしていく。

属人的なものは、なるべく社内で共有できるようにしていく。


自社が選ばれるためには、「お客様に喜んでもらいたい」という気持ちが大切になってきて、その気持ちで仕事を行っていると、お客様から感謝の気持ちが返ってくることがあります。

「いい商品を作ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」

そういった思いのエネルギーの「循環」がある会社は、社外にファンや味方がたくさんいます。


先日、お会いした社長さんが以下のようなことを言っていたのが、印象に残っています。

「つい最近、ライバル会社が火事に遭って生産不能に陥り、うちに注文が殺到しているんだ。」
「今、一生懸命作っているんだけど、原料が足りていなくて・・・。まぁ何とかやっているよ。」
「今は一時的に儲かっているけどね、でもね、ライバル会社が立ち直ったら、向こうに注文をお返ししようと思うんだ。」
「相手の不幸に乗じて利を得ても、そんな商売は長続きしない。」
「そりゃあもっと会社を大きくしたいよ。社員も幸せにしたい。でも相手の不幸に乗じてとか、相手を騙してとか、そこまでして儲けたいとは思わない。そんなの長続きしないし、そんなことはしたくない。」

住宅地の中にある、込み入った路地を駅から10分ほど歩いたところにある、小さな町工場の社長さん。

経営者として間違っているのでは、と言う人もいるかもしれません。

しかしこういった社長さんを見ると、つい、いつの間にか応援したくなってしまう。それが人間というもの。


社員10人の会社であっても、社外にたくさんの味方がいる会社は強いものです。

逆に社員30人の会社であっても、実質戦力として2、3人、場合によっては社長さん1人の力だけで戦っているような会社もあります。

社長さんであれ、営業、開発の方々であれ、「人のためにお役に立ちたい」という思いが、会社の周りに味方を作っていく。

それが「あの会社の商品を買いたいんだ」と選ばれる理由になり、人と人の間に「いつも作ってくれてありがとう」「こちらこそ」という感謝のエネルギーの循環を生み出していく。

そうして社外の人も巻き込んで、「皆で」大きな流れを作っていく。

そこに皆が幸せを感じている。


2.本当の「経済改革」とは?

幸せとは一体なんでしょうか。

お金がたくさん流通している状態を「景気が良い」と言います。

しかし人の幸せ、社会の幸せというのは、お金や物の流通量ではなく、こういった目には見えない「感謝のエネルギー」の流通量によって決まるものではないでしょうか。

確かにある程度のお金や物は必要です。

しかし世の中には、お金や物をたくさん持っていても苦しんでいる人がいます。お金や物があまりなくても幸せそうな人がいます。

その違いは何か。

それは、人の心の中に「ありがとう」「こちらこそ」という「感謝のエネルギー」が流通しているかどうかではないでしょうか。

それはたとえて言うならば、目には見えない通貨、「心の通貨」ということができるかもしれません。

物質的なお金を手段として、いかに「心の通貨」の流通量を増やしていくことができるか。

それが本当の「経済改革」ではないでしょうか。


渋沢栄一の大河ドラマが始まりました。

「日本資本主義の父」と呼ばれた実業家・渋沢栄一は、「論語と算盤」などを通して以下のことを述べています。

「資本主義は仁義や道徳があってこそのもの」

町工場の社長さんに、その実践者としての姿を見たように思います。



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