【映画評】「13th -憲法修正第13条-」で描かれる構造的な人種差別
ようやくNetflixのドキュメンタリー「13th -憲法修正第13条-」を見たので、忘れないうちにまとめと感想を記しておきたい。アメリカ建国時から続く黒人差別問題について深く掘り下げたドキュメンタリーである。
13th -憲法修正第13条-のまとめ
このドキュメンタリーは、以下のような衝撃的な出だしで始まる。
「統計上アメリカの人口は世界の人口の5%だが、受刑者数は世界の25%と化している。」”自由の国”アメリカの異常性が、この一文だけで見て取れるだろう。
南北戦争(✳︎1)が終結し、黒人奴隷が自由になった時問題となったのは経済である。それまでのアメリカでは黒人を奴隷として労働力を搾取していたため、奴隷を解放することはそれをすべて失うことになる。
修正第13条は、奴隷行為を禁じているが、ただし、「犯罪者」は例外である。黒人たちは徘徊などの小さな罪で収監され、刑務所で労働力を搾取される。黒人のイメージは「野蛮で粗暴な人物」として定着していった。事実上の奴隷制度は継続していたのである。
白人が黒人の労働力を必要とした結果、黒人男性には野蛮で暴力的なイメージが固定化された。『国民の創生』という映画では、白人女性が黒人男性から逃げるために崖から飛び降りる描写がある。黒人男性は「レイプ魔」であるという間違ったイメージが定着させられた。「ジム・クロウ法」は公然の人種差別政策であり、黒人たちは公の場で迫害を受け、リンチされ、檻に入れられていった。(✳︎2)
公民権運動は勢いを強め、多くの黒人の間でこれらの差別に対する動きが見られた。彼らは逮捕されることさえ利用して、運動を推し進めていった。そしてついに、公民権法と投票権法が可決され、初めて人種間の平等が実現される兆しが見えた、かに思えた。
公民権運動のあと、犯罪者の増加が起こったが、それはアメリカ全体の人口が増えるに従ったものであった。しかしながら、その責任は黒人たちになすりつけられ、まるで公民権運動で開放された黒人たちが犯罪を犯したかのような印象操作がなされた。
1970年代、大量投獄がなされた。多くの黒人が、刑務所に入れられ、そこからはなかなか出るころはできない。「スリー・ストライク法」によって、三回逮捕された犯罪者は、自動的に終身刑が下されることが法のもとに定められたのである。
ニクソン大統領が法と秩序を求めた頃、人種問題は犯罪問題に意図的にすりかえられる。「反戦運動、女性解放運動、ゲイの権利運動」などを彼は敵視していた。彼は犯罪との戦いを掲げ、”麻薬戦争”の言葉が生みだす。政府は、黒人を麻薬と結びつけ刑務所送りにすることで、その撲滅を謳った。
レーガン大統領は、1982年に麻薬戦争を開始させた。当時関心の低かった麻薬問題を重要なこととして取り上げたのである。経済は危機にあった。格差はますます広がり、黒人たちと白人たちとの間では貧富の差が決定的となる。
アフリカ系アメリカン人の間では、コカインより安価なクラック・コカインが広まっていた。政府はクラック・コカインの罪を通常のコカインより重い刑にすることで事態の収束を図る。そして、多くの黒人たちが刑務所送りになった。
都市での黒人の孤立、経済問題は依然として問題であった。「麻薬戦争」は「人種戦争」であったのだ。レーガン大統領は麻薬犯の投獄と富裕層の減税を推し進めた。結果的に、有色人種に不利な政策が取られたのである。
黒人は犯罪者として何度もテレビに移され、人々はそれをみて恐怖心を抱くようになる。黒人は犯罪者である、という言説は白人のみならず黒人の間でも信じられるようになった。(✳︎3 )黒人の犯罪への取り締まりは加速していく。
アメリカでは産獄複合体といって、刑務所での労働によって企業が儲かるシステムが常態化している。終わったと思われていた奴隷制は、形を変えて存続していたのである。(産獄複合体について、こちらのブログがわかりやすいかも→https://ameblo.jp/hoshitukiyoru7/entry-11745681967.html)
(✳︎1 奴隷解放運動の父であるリンカーンは人種差別主義者であるという説もある。)(✳︎2 Billie Holidayの「Strange fruits」は木に吊り下げられた黒人たちの様子を表した歌として有名。)(✳︎3 ドナルド・トランプはレイプ魔と決めつけられた無実の五人の少年を死刑送りにするよう求めた。)
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(二週間ほど前に見たドキュメンタリーのあらすじを健忘録として記しておきます。記憶が曖昧な部分があるのと、後半の大事な部分を端折っているので一度視聴をお勧めします。一時間四十分ほどのドキュメンタリーで、Netflixには入っていない人でも全編Youtubeで見れます。URLはこちら→https://www.youtube.com/watch?v=krfcq5pF8u8)
昨今話題になっているBLM問題について知らなければと思い見たのだが、アメリカでの刑務所のあり方が、国、企業、看守を巻き込んだ想像以上に根深い問題であることを知り愕然とした。あとやはりこうした問題は、金や利権が絡んでくるとよりいっそう事態が複雑化してしまうというのもよくわかった。
感情的に解決出来る問題ではないし、これは黒人たちが怒るのも無理はないな、と思わされる内容である。これはもう個人間の「思いやり」などで解決出来る問題ではない。アメリカの建国からずっと、黒人差別は大樹の根となって国を支えてすらいるのだ。構造的な人種差別というのは、構造を変えることでしか解決できない。
時折黒人歌手の有名なHIPHOPの曲が流れるのだが、彼らの書く歌詞がなんと真に迫ったものであるか!これまで歌詞の内容もよく知らずに聞いていた自分を恥じた。「黒人はラッパーか売人になるしか金持ちになる手段はない」というのは比喩でもなんでもなかった。事実、そういう社会であったのだ。( HIPHOPのみならず、Black Eyed Peasの"street"においても黒人問題についてとりあげられています。このような曲は探せば数多くありますが、一例として。解説→https://note.com/raplyric/n/nd456dc05c5a5
最近だと、Kanye Westの「Wash Us In the Blood」や HERの「I can't breath」など、多くのアーティストが黒人差別にまつわる直接的な歌を発表しています。)
麻薬を取り締まるという正義の名の下に「人種差別」が行われているということにどうしても違和感を感じ大学の大学の先生に相談してみたところ、「正義はレイヤー分けして考えるといい、人種差別はより根本的な正義で、犯罪を抑制する正義によって、それが侵されることはあってはならない」という腑に落ちる回答をいただいた。人種というのは、それほどまでに「尊重されて当たり前」の正義であるのだ。世界が混沌としている中でも、私たちは当たり前の尊厳を守るために、一体何が起きているのか、まず知ろうとしなくてはならないと思う。
( Lady Gagaが卒業生に向けた式辞において語られる黒人差別の問題を自然に喩えた説明がわかりやすかったので載せておきます、Beyonceのスピーチもかなり感動的です→https://www.youtube.com/watch?v=oEd1FBW3H70 )
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