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ブラック・アイド・ピーズが描くストリートの現状。(Black Eyed Peas - "Street Livin'")

writer:@raq_reezy

Black Eyed Peasといえば、どんな曲を思い浮かべますか。

 YouTubeにアップされたPVは軒並み1億回再生を軽く突破し、グラミー賞は過去に6度も受賞しているこの化け物グループ。

"I Gotta Feeling"や"Pump It!"、"Boom Boom Pow"などのヒット曲は、誰でも必ず聴いたことがあるかと思います。

パーティーが盛り上がるアッパーな曲から、心地の良い曲、メッセージの込められた曲まで、素晴らしいポップ音楽をたくさん生み出して、一時代を築いたBlack Eyed Peasですが、残念ながら2011年を持って活動を休止していました。

そのBlack Eyed Peasが、2018年になり、人種差別やストリートの現実を描いたドープなヒップホップ楽曲を携えて、音楽シーンに戻ってきました。

今回は、このBlack Eyed Peasを見ていきたいと思います。

1バース目(will.i.am)

Street livin', caught in the trap
Guns or books, sell crack or rap
Be like kings or be like pawns
They called us coons, now they call us cons

【意訳】
ストリートで生きる、ドラッグ・ディールの罠に囚われている
銃か本か、コカインを売るかラップをするか
キングのようになるか、ポーンのようになるか
あいつらは俺たち黒人をバカにしてアライグマと呼んだ
今は、俺たちのことを詐欺師だと呼ぶ

ストリートでは、本を読んで勉強してキャリアを築くのと同じくらいに、銃を手にとってギャング活動に身を沈める可能性が高い様子が歌われています。同じようにラップを通じてミュージシャンとして活動していくだけでなく、手っ取り早く目先のお金を稼げるドラッグの売買に手を出してしまうことも多い様子が歌われています。

また、そうした背景には、自尊心を持つことが難しい環境があるという様子が見て取れます。昔は、「アライグマ」と差別して呼ばれていた歴史がありますが、今でも「詐欺師」と呼ぶような差別が続いているのでしょう。

Street niggas be packing pistols
Terrorists be blasting missiles
Crips and Bloods and retail thugs
CIA planes bring Colombian drugs in

【意訳】
ストリートに生きるやつらは、ピストルに銃弾を詰めている
テロリストはミサイルを撃ち放つ
クリップスにブラッズ、それからドラッグを売る不良
CIAの飛行機がコロンビアからドラッグを運んでくる

ここではストリートだけでなく、少し視野が広がっています。

ストリートではピストルが身近で、カラーギャングであるクリップス(青)とブラッズ(赤)が殺し合いを続けています。またリテール(小売)のサグというのは、ドラッグの売人でしょう。

一方、世界レベルで見ても、テロリストはミサイルを射ち、CIAの飛行機がコロンビアからドラッグを運んでくると歌っています。確証が取れているわけではありませんが、Rap Geniusの解説によると、1980年代にCIAがコカインを本土に運び込んでいたことがあるようです。

Don't push me 'cause I'm close to hell
The teachers in my neighborhood can hardly spell
And compare to them, prison guards get paid well
Ten years no bail is 4 years at Yale

【意訳】
俺を押すなよ、ここは地獄に近いんだ
近所の教師たちは単語のスペルも覚束ない
そして、教師たちに比べて、刑務所の護衛は給与が随分と良い
保釈のない10年は、イェール大学の4年分だ

教育の問題について触れています。

教師の給料よりも、刑務所の護衛の方が給料がよいというフレーズからも分かるように、教師に十分な給料が払われておらず、良い人材が教師になって子どもたちを正しい道へ導くのが難しいのでしょう。

So, forget about the statue of General Lee
Because the status of blacks are generally
Gonna end up in some penitentiary
Systematically, that's how they made it to be

【意訳】
だから、リー将軍の石像のことなんて忘れてしまえ
だって、黒人の石像はだいたい刑務所に入ることになるんだ
そういうシステムがつくりあげられてるんだ

リー将軍は、南北戦争の南軍を率いた将軍です。2017年の夏には、シャーロットビルでリー将軍の銅像の撤去に反対したネオナチの集団が集まり抗議活動を繰り広げました。最終的にはネオナチの人々とリベラルな人々の抗争という事態に陥り、3名が命を落とす結果となりました。

また、このことについて、トランプ大統領が「どちらにも悪い人間がいた」とある種、ネオナチを庇うような発言をしたことも議論を呼びました。

Listen, they derailed the soul train
And put a nightmare in every Martin Luther King
And privatized prisons are owned by the same
Slave masters that owned the slave trade game

【意訳】
聴いてくれ、あいつらはソウル・トレインを脱線させたんだ
そして、全てのキング牧師に悪夢を見させた
それに、私営化された刑務所は奴隷貿易時代の主たちが経営している

キング牧師は「I have a dream(私には夢がある)」から始まる演説で有名な人権活動家でした。そのような夢のある若い黒人に悪夢を見させているというのがここで歌われている内容です。

そして、刑務所が私営化されたビジネスとなっており、その刑務所のオーナーの懐を潤すために、次々と黒人が逮捕されて刑務所に送り込まれているというのがwill.i.amの主張です。それはまるで昔の奴隷貿易で人権を蹂躙して資本家が富を得た構図と同じだと。

And racists no longer have to be racist
'Cause niggas kill more niggas than the KKK did
Now, every time I hear a new def jam
Niggas killing niggas like they Ku Klux Klan

【意訳】
レイシストはもうレイシストでいる必要がない
だって、今では黒人の方がKKKよりも黒人を殺しているからさ
いま、俺は新しいデフジャムを聴くたびに、黒人が黒人をKKKのように殺しているんだ

さらに、カラーギャング等の抗争によって、黒人同士での殺し合いが絶えない状況を、レイシストが活動する必要がないほどだと嘆いています。

KKKは白人至上主義者の秘密結社で、第一次世界大戦以後のナショナリズムの盛り上がりの中で過激化し、有色人種を排除しようと暴力的な活動を展開しました。

I understand what's a nigga to choose?
Be the killer or be the dead dude in the news
I get it, what's a nigga to do?
No education in the hood got a nigga confused

【意訳】
俺は黒人の選択肢を理解している
殺人者になるか、ニュースで報道される死亡した人間になるかの二択だ
それは理解した、じゃあ俺たちはどうすればいいんだ?
地域での教育の欠落が、俺たち黒人を混乱させているんだ

ここでは、正しく生きるということの難しさを描いています。つまり、殺す側に回らなければ、殺されるような環境だということです。

そして、それらは全て、十分な教育が欠如していることによって引き起こされているのです。

続いて、アップル・デ・アップのバースを見ていきましょう。

2バース目(apl.de.ap)

Street livin', tough conditions
Brainwashed by the television
We lost in the war we live in
Double cross love lost no religion

【意訳】
ストリートに住んでいる、過酷な状況だ
テレビによって洗脳されている
俺たちは、いま生きているこの戦争に負けたんだ
裏切りられた愛によって、信仰を失った

アップル・デ・アップは、今の社会を、戦争に敗北したと描いています。これは平等を達成するためのリベラルな戦いに敗北したということでしょう。何度も政府に裏切られてきたことで、国家等への信仰も薄れてしまっています。

Street livin', oh my gosh
Another brother got shot by the searg'
Another cop got off with no charge

【意訳】
ストリートに住んでいる、なんてことだ
また仲間が巡査部長に撃たれてしまった
また警官が裁かれることなく事態を切り抜けた

また、警官はたびたび誤射事件を起こしており、多くの黒人男性がその犠牲になっています。しかし、警官は多くの場合、重い罪に問われることはありません。この問題は、今のアメリカのヒップホップにおいて、多くのラッパーが触れている問題です。

If you black in the hood, you at large
You're guilty until you prove you're innocent
If you're ivory, they treat you different
If you're ebony, they assume your temperament
Will be vigilant and they call you militant

【意訳】
もしお前がフッドの黒人なら、お前は常に逃亡中だ
お前は自分が無実だと証明するまで、常に有罪だ
もしお前がアイボリーなら、お前は違う扱われ方をする
もしお前がエボニーなら、あいつらはお前を気性が荒いと仮定する
俺たちが警戒すると、あいつらはお前を好戦的だという

自由と平等の国であるはずのアメリカですが、未だに肌の色による先入観や差別が残っています。先入観というのは恐ろしいものです。日本でも、「あいつはダメなやつだ」という先入観を持たれてしまうと、正しいことをしていても、正しく評価されないということは往々にしてあるかと思いますが、それが生まれつきの肌の色で決まってしまうような社会も残っているのです。

And you'll get shot and they'll say the incident
Is 'cause you're belligerent, what a coincidence?
Born and bred but you're still an immigrant
And if you ain't dead, you can see imprisonment

【意訳】
そして、お前は撃たれて、あいつらはそれを事故だという
お前が交戦国だからさ、なんて偶然の一致だろう
アメリカに生まれて育ったけれど、お前は未だに移民扱いだ
そして、もしお前がまだ死んでないなら、お前は投獄されるだろう

コーラス

There's more niggas in the prisons than there ever was slaves cotton picking
There's more niggas that's rotting in the prisons than there ever was slaves cotton picking

【意訳】
いま収監されている黒人の数は、綿を摘んでいた奴隷の数よりも多い
檻の中で腐っていく黒人の数は、綿を摘んでいた奴隷の数よりも多い

全体の人口自体が増えているという側面はあれど、昔のピーク時の奴隷の数よりも、いま収監されている黒人の方が多いというのは、ショックの大きい事実ではないでしょうか。しかも、その中には、これまでのバースで触れられているように、無実の人も多くいることでしょう。

So, how we gon' get up out the trap?
Guns or books, sell crack or rap
Street livin', hustle or hoops
Guns or books, get shot or shoot

【意訳】
俺たちはどうすれば罠から抜け出せるだろうか?
銃か本か、コカインを売るかラップをするか
ストリートに生きている、売人になるかバスケットボールをするか
銃か本か、撃つか撃たれるか

ここは1バース目に似たような部分がありました。

ヒップホップでよく出てくる表現で、貧しく生まれた黒人が金銭面で合法的に成功を収めようと思うと、ラッパーかバスケットボール選手として成功するしかないというものがあります。しかし、それらはどちらも下積み期間を必要とする上に、誰もが成功できるわけではありません。

そして、毎日多くの若い人たちが、目先のお金を手っ取り早く稼げるという誘惑に負けて、ドラッグの売人になっていくのです。

3バース目(Taboo)

Street livin', ain't no rules
Break the law, make the breakin' news
The life you choose could be the life you lose
Niggas getting stuck for the Nike shoes

【意訳】
ストリートに住んでいる、ここにはルールがない
法律を破り、みんなが驚くニュースをつくる
お前が選んだ人生は、お前が命を失う結果になるかもしれない
誰もがナイキの靴に縛られている

ここは2バース目にも似た表現がありました。殺す側になるか、殺される側になるかという話にも似ています。

Street livin', ain't no joke
It's a cold world, better bring your coat
Revoke 'cause the streets are broke
And now they wanna take away our dreams and hopes

【意訳】
ストリートに生きている、これは冗談じゃないぜ
ここは寒い世界だ、コートを持ってきた方がいいぜ
約束を反故にする、だってストリートは極貧だから
そして今、あいつらは俺たちから夢と希望を取り去ろうとしている

ストリートでは、金銭的な貧しさのあまりに約束が反故にされるようです。

社会的に立場を築いていくために一番重要なのは「信用」です。それぞれが「信用」を築いていくことで、相手を信頼してビジネスをすることができるようになり、経済は成長していきます。貧しくてお金がないために、その根幹である「信用」の部分が、なかなか築けず、約束を反故にする人が絶えない現状があるようです。

Street livin', no economics
No way out of the Reaganomics
Infected by the black plague, new bubonic
No comprende, we speak ebonics

【意訳】
ストリートに生きている、ここには経済がない
レーガノミクスから抜け出せない
ペストに感染している、新しい黒死病さ
俺たちはアフリカンアメリカン英語を話す

レーガノミクスというのは、レーガン大統領の時代に行われた新自由主義的な政策です。新自由主義というのはイギリスだとサッチャー、日本だと小泉元総理大臣が取った政策が近しいものになります。

つまり、小さな政府を志向して、規制を緩和し、国の機関を民営化し、富の再分配を減らすといった方向の政策です。こうすることで、経済は活性化しますが、その中で格差が拡大していく点が批判を集めることが多いです。1バース目で教師の給料が低いことを問題点としてwill.i.amがあげていましたが、そのような問題も、こうした当時の政府の方針に端を発しているのかもしれません。

Street livin', what's your position?
You can take action or take a dick and listen
You can get fucked by the system
Or you can say "fuck the system"

【意訳】
ストリートに住んでいる、お前のポジションは何?
行動を起こすか、チンコを握って聴け
お前はシステムにめちゃくちゃにされるか
それとも「システムなんて糞食らえ」と叫べ 

ここまでストリートの悲惨さが描かれてきましたが、最後に主体的に行動するか、それともストリートに埋もれて終わるかという二択が提示されます。ここがまさにこの曲のポイントではないでしょうか。 

ビル・ゲイツは、人生は公平ではないが、誰にでも可能性があるということを述べています。

人生は公平ではない。
そのことに慣れよう。

もちろん、ストリートに生まれ育ったことによる不公平は社会的に解消していくべき課題です。また、決して世の不公平を正当化するものではありません。

しかし、そこに生まれたからと言って、全てを嘆くだけでは何も変わりません。ヒップホップは、ストリートに生まれ育った人たちに声と希望を与えることが、その大きな役割の一つなのだと思います。

ということで

今回は、Black Eyed Peasでした。「これがあのBlack Eyed Peasなの!?」と思ってしまう人もいるかもしれないほど、重いテーマと曲調ですが、いかがでしたでしょうか。

何か感じるところがあれば幸いです。

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