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2023年詩

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#今こんな気分

149「詩」秋の光の中で

149「詩」秋の光の中で

早朝親友からLineが届く
今日は98歳の伯父が召されてお葬式です

雲が波立ち
穏やかな引き潮になっている
雲の上には
地上を青く染めながら空が広がる
高く高く
空は天国にまで続いている

雲が波立つ音が
聞こえる
その下で
思い出されることのない悲しみが
口を閉ざしている

音の雫が
一滴
悲しみに
落ちる

思い出したくない悲しみたちは
雫にほんの少し溶けて
昇華していく

昇華して
雲の引

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148「詩」ヒラミさん

148「詩」ヒラミさん

ヒラミさんは
産まれて3ヶ月で私のところに来ました
オレンジ色の小さな猫だったので
ヒラミオレンジから名前を付けました

半年過ぎて
10キロちかくある
大きな猫になりました

ヒラミさんには未来も過去もありません
今という時間のなかで
精一杯遊び
精一杯食べて眠ります

ヒラミさんには悪意がありません
かといって善意もありません
お腹が空いたら食べる
眠くなったら眠る
遊びたくなったら遊びます

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147「詩」詰め込む

147「詩」詰め込む

気が滅入る朝
ろくでもない思い出ばかりが
次々に出てくる

ひとつひとつ摘み上げれるば
思い出したくないダメな自分が
ボロボロと溢れ落ちる

そんな時は
全部
不透明な袋に詰め込んで
ひとまとめにしてしまおう

朝日に透かして見れば
どうしてどうして
ろくでもない思い出だらけの袋だって
なかなかいい色してる

146「詩」秋祭り

146「詩」秋祭り

笛の音があたりの空気を引き裂き
この世からあの世へと
橋をかけて
秋の祭りは始まるのです

この世の人たちが
実った稲穂を
その土地に住む神さまに捧げ

あの世では
この世から移り住んだ人たちが
稲を育んだ人々をねぎらっています

太鼓の音が
あの世の人たちがちゃんと
生きているのを伝え

「ほら
みんなの鼓動が聞こえるでしょう」
あの世の人たちがこの世の人たちに
ささやく声であふれます

田畑が

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145「詩」おやすみなさい

145「詩」おやすみなさい

おやすみなさい
今日の隙間から抜け出して
時の止まった空間に横になります

見上げると天の川が
ゆるやかに流れています
流れを横切っていく魚の数を
数えていたら
気づかないうちに夢のなかを
私が走っているはずです

私は秋桜の咲き誇った丘まで
走っていきます
丘の上で
抱えきれないほどの秋桜の花束を
子どもたちのために作ります

夜明け前に
子どもたちひとりひとりの
足元を秋桜の花束で祝福します

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144「詩」オルガン

144「詩」オルガン

早朝
ラジオから流れるパイプオルガンを
聴いている

こんなに遠くにいるのに
こんなに時間が経ったのに
そのままの心が伝わるよ

ぜんぜん違うものをみていたはずなのに
ぜんぜん違う生活のなかにいたのに
変わってない心が伝わるよ

人々が作り出したものが
人々の生活を変えていっても
心は変えられないんだ

大切にしているものは
変えられないんだね

何百年も経っている音楽が
何百年も経った楽器で

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82「詩」雨の月曜日

82「詩」雨の月曜日

雨の月曜日
心の中まで濡れてしまわないように
暖かな飲み物を注ごう

悪いことばかりでない
飲み物が冷めてしまわないように
良いことを見つけていこう

( 返詩 : 寺間風 )

濡れた前髪と
青葉の香りを引き連れて
君が帰ってくる

熱い紅茶とビスケット

雨に煙る窓辺から
虹の架かる空を見よう

*返詩をいただきました。
寺間風さまに感謝💓

81「詩」5月6日

81「詩」5月6日

今こうして生きているのは
お腹で育んで
産んでくれた人がいたから

今こうして生きているのは
オムツをかえ
お乳を与えてくれた人がいたから

毎日毎日同じことを
気が遠くなるくらいに
同じことを繰り返し

育んでくれた人がいたから

この子にとって良いものを与えたいと
たとえそれがその子にとって不必要なものだったとしても
信じて与え続けてきた人がいたから

出逢ってくれて
大切に思ってくれる
誰か

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77「詩」詩を書く

77「詩」詩を書く

伝えたかった
こんなに素敵な気持ちを
独り占めするのが申し訳なくて

伝えたかった
立ち止まったまま動けない
重い気持ちを1人で背負うのが辛過ぎた
同じ気持ちを分け合えば
動き出せそうな気がした

今ガラスの破片のように
輝く一瞬のこの気持ち

伝えるには言葉しかなかった

ひとつひとつの言葉を
何度も何度も心の羽で暖めながら
文字にした

伝えたかった
でも
伝わらなくても仕方ないと思った

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76「詩」咲く

76「詩」咲く

少女の長い髪が南風になびくと
花たちが一斉に咲き始める
暗かった日々をねぎらいながら
花たちは陽射しの方向だけを見つめる

違う色
違う形
違う香り
花たちは比べることを知らない
ただそこに寄り添って咲いている

ひとつひとつの物語を
そっと胸に秘めて
何事も無かったように
黙って空に向かって咲いている

(写真 : O. Mikio)

75「詩」雨が降っている

75「詩」雨が降っている

絶え間なく雨の音が聞こえている
朝からずっと
雨は分け隔てなく降りしきり
辺りをぜんぶ
包んでいる

うすいラベンダー色の雲と
銀色の無数の雨粒が
街を繋いでいる

野原では
小さな動物たちがさらに小さな子どもたちを
育んでいる

雨粒は草花を潤し
葉っぱの上で宝石のように集まって
小さな動物たちの喉もまた潤している

灰色がかった薄紫色に染まった街は
静かに静かに
雨音と時計の音を響かせ
何事も

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74「詩」はるか上

74「詩」はるか上

私なんかダメな人間なんだ
遠い昔の私が呟く
自分を卑下するな
怒って投げ捨てるように言った人がいる

自分が嫌いで嫌いで
消えてなくなりたくなる
そんな時はきまって
あの人の叱る声が聞こえる

とてもたいせつだった人
たいせつ過ぎて友だちにしか
なれなかったあの人

重く大地を覆う雲のはるか上
碧く染まった光の中にいる
立ち尽くしたままの私のはるか上

73「詩」朝

73「詩」朝

人の悪意や強欲や妬みや嫉みや
汚れた人間から遠く離れた
別の世界で 
ひっそり生きていこう

朝焼けがこんなに美しく
別の世界へと
導く

1日はもう始まっている

65「詩」そっとそこに

65「詩」そっとそこに

わたしはそっとそこにあります

いらなくなったものはそっと
わたしの中に捨ててください

思い出すと自分が嫌いにになりそうな
思い出すとあの時に戻って消したいような
触れたくない傷をみんなみんな
わたしの中に捨ててください

わたしはそっとそこで
いらなくなったものを
そのままに仕舞っておきましょう

フツフツと醗酵して
やがて
いらないものが
あなたの必要なものになるまで

あなたのいらなくなっ

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