見出し画像

【新刊試し読み】『ふるさと再発見の旅 関東』|清永安雄 撮影

残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行シリーズ第五弾『ふるさと再発見の旅 関東』が4月13日(水)に発売されたことを記念して、本文の一部を公開します。


本書について

日本全国津々浦々、歴史ある門前町や宿場町から、知られざる漁村や在郷町まで。残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行シリーズ。
第五弾「関東」は茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、東京を収録。コラムでは地域に伝わる祭りや著名人の旧居、ノスタルジックな商店街をピックアップ。各県の重要伝統的建造物群保存地区も全て掲載しています。


試し読み

平潟ひらかた(北茨城市平潟)

アンコウと温泉の漁師町

 福島との県境にある北茨城市。太平洋に面した風光明媚な海岸線は、茨城県の中でも屈指の観光スポットとして人気がある。その中で、自然の入江を利用した漁港を持ち古くから栄えてきたのが平潟である。江戸時代には、山形の酒田港から江戸に向かう東廻りの海運寄港地となり、商業地としてもにぎわいを見せていたという。
 実際に足を運んでみると、ほんとうにこじんまりした漁港だ。港の東に薬師堂、西には八幡神社があり、奇岩にも見える海食崖かいしょくがいに両岸を囲まれ、おだやかな波に何艘かの船がたゆたっている。
 港に向かって建ち並ぶのは、温泉旅館や民宿。ここは良質な温泉が湧出する地で、寄港した漁師たちが体を温める郷土温泉として古くから親しまれてきた。今も温泉は残っており、平潟温泉として知られている。
 そして、平潟といえば忘れてはならないのがアンコウ。平潟港は、日本でも有数のアンコウの水揚げ港であり、新鮮なアンコウを使ったアンコウ鍋、そのルーツともいえるどぶ汁の発祥の地でもあるのだ。
 アンコウ鍋が醬油出汁で身や肝を煮るのに対して、どぶ汁は水を入れず、アンコウの肝だけで煮るというもの。その濃厚な味は多くの美食家を唸らせてきた。あの北大路魯山人きたおおじろさんじんも、平潟のどぶ汁を大変好んだといわれている。
 昭和三十年代、アンコウは身だけ売られ、その他の部分は捨てられていた。そこで平潟のある旅館の主人が、地元の漁師が食べていたどぶ汁に注目。旅館の客にふるまったところ大好評で、これを機に平潟のどぶ汁は広く知られるようになったといわれている。現在もどぶ汁を食べられる旅館や民宿が約二十軒ほどあり、冬のシーズンともなれば連日宿泊客でにぎわう。
 春の平潟に、もちろんのことながらシーズンの喧騒はない。古くからある旅館の脇の路地を歩けば、何の変哲もない木囲いの家々が並ぶ。時折、地元の漁師と思われる人とすれ違う。あとは驚くほど、動きのない風景。そのひなびた漁師町の佇まいが、心地いい。このままのんびり町を歩き、夕方、北茨城の海で捕れた新鮮な魚介に舌鼓を打とうか。そう企んだだけで、旅で疲れた足もグッと軽くなった。


目次

【茨城】
平潟/鯨ヶ丘/笠間
コラム:野口雨情生家/宮下銀座商店街/悪態まつり
重伝建:真壁
【栃木】
那珂川町小砂/徳次郎町西根/佐野
コラム:宇都宮オリオン通り商店街/おたりや/田中正造生家
重伝建:嘉右衛門町
【群馬】
布施箕輪/伊参/砥沢
コラム:磯部温泉/新島襄旧宅/安政遠足侍マラソン/高崎中央銀座商店街
重伝建:桐生新町/六合赤岩
【埼玉】
東秩父/行田/吾野宿
コラム:飯田八幡神社例大祭/塙保己一生家/大宮一番街商店街
重伝建:川越
【千葉】
外川/大多喜/野田
コラム:大原はだか祭り/伊藤左千夫生家/柏二番街商店街
重伝建:佐原
【神奈川】
青根/大山門前町/福浦
コラム:二宮尊徳生家/湯かけまつり/御成通り商店街
【東京】
人里/氷川/門前仲町、亀戸、西新井
コラム:御餇神事/十条銀座商店街/徳冨蘆花旧宅


著者紹介

清永安雄
1948年、香川県生まれ。写真家。京都写真美術館代表。公益社団法人日本写真家協会会員(JPS)。 写真集に 『日本人の道具』、『パリスケッチ』、『樹々変化』、『古鎮残照』、 ノスタルジック・ジャパンシリーズ、『美しい日本のふるさと』シリーズなどがある。


『ふるさと再発見の旅 関東』撮影/清永 安雄
【シリーズ】ふるさと再発見の旅
【判型】A5変型判(200mm×148mm)
【ページ数】236ページ
【定価】2,420円(税込)
【ISBN】978-4-86311-330-5


本書を購入する


「ふるさと再発見の旅 シリーズ」とは

日本の原風景に出逢う旅へ―
各地に残る美しい日本の原風景と、その地で紡がれてきた歴史や物語を丹念に取材し、オールカラーでお届けする写真紀行のシリーズ。
―掘り起こせば私たちの国は、虚実入り混じった、数えきれぬほどの歴史や伝説、言い伝えに彩られています。そんなふるさとの町や村に埋もれてきた、歴史譚や懐かしい原風景に出逢う旅―


この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所