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国籍や文化の枠は関係ない。ただグルーブを起こすのみ

この記事は2021年6月4日に東京で行われたTIAの取材記事に基づき、国内読者向けに加筆・編集された内容です。


monopoは 東京、ロンドン、ニューヨークに拠点を置き、多岐にわたる分野を手掛けるクリエイティブエージェンシー。

洋の東西を問わず、デジタルエクスペリエンス、ブランディング、広告、動画制作を通じたデザイン中心のソリューションを提供している。

東京で発足したmonopoは、創業10年にしてグローバルなマインドに満ちたコミュニティを形成し、クリエイティブを通じて文化の壁を打ち破ることに邁進してきた。

今回のインタビューでは、monopoの共同創業者でCEOの佐々木芳幸(以下、佐々木)が、プロのベーシストからクリエイティブエージェンシーの経営者になるまでの半生を語った。

彼のmonopoでの役割をはじめ、monopoの目覚ましい業績拡大の経緯や今後の事業計画について話したインタビューの内容を紹介する。


「無」を愉しむ、日本人の美意識。伝統工芸品を通じて、気鋭のアーティストの存在を知ることも


ー 日本の一番好きなところを教えてください。

日本人のデザインに対する考え方が、日用品から建築、古代工芸品に至るまであらゆるものに反映されているのがいいなと思います。日本には昔から「ネガティブスペース(空白)」を愉しむという美意識があり、これは日本の陶磁器などの作品にも見られ、すべての物は「無」との対比で存在していると考える文化にも反映されています。無を意識させられることで、思考を解き放つことができるように感じています。


例えば、西洋や中国の陶磁器に伝統的に見られる精緻なデザイン手法とは異なり、日本の陶磁器は意図的に空間とのコントラストを生み出すようにデザインされています。日本人はトイレでさえ、器と体験の「無」を考慮してデザインしています。

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余白があることは、日本のデザインの特徴である


ー (海外の人が)東京を訪れたらぜひすべきだと思うことは何ですか。

美味しい物や夜景・文化を楽しめる派手なスポットはたくさんありますが、日本中から厳選した陶磁器を扱うようなセレクトショップをおすすめしたいですね。

東京のなかでも商売っ気が少なく、一見地味かもしれませんが、店主があちこちから選んだ商品を通じて、多くの新進気鋭の作家たちの存在を知ることができます。

また、そこからインスピレーションを得たり、自分の作品を作ったりしたことのあるような方には、実際に作家に会って作品を肌で感じてみるのをおすすめします。例えば、東京から1~2時間ぐらいの陶芸の街、益子は私にとっての「パワースポット」のひとつです。益子では、ミニマリズムと現代デザインを調和させた特有の作風が見られます。

日本を武士が統治していたころは、地域を象徴する特徴的な陶磁器のスタイルが数多く生まれました。みな独自の美意識を求め、新たな文化を広める「トレンド」を作るため、工芸品の技法や芸術家に投資する君主も多かったのだそうです。


「より良い音楽のためには、トップのベーシストに演奏してもらうべき」。ミュージシャン経験を通じてプロデュース力に気づく


ー 2011年に岡田隼(以下、岡田)さんと共同でmonopoを創業したきっかけはなんでしょうか。

当時、お互いにプロのベーシストを目指していた岡田とライブをしていて、彼がステージを下りたときにmonopoを立ち上げようと思ったんです。そのころすでに、ぼくも岡田もギャラをいただいて、仕事として演奏する機会もありました。そんなときに気づいたのが、自分たちよりももっと才能があるはずのミュージシャンが、仕事として演奏する機会が得られずにいる事実でした。彼らに足りなかったのはプロデュース力だったんです。

より良い音楽を届けるためには、自分がトップのベーシストを目指して練習したり、演奏したりするよりも、トップのベーシストを招いて演奏してもらうほうがいいのかもしれない。そして、そのことにやりがいを感じた時に、自分のなかにあるプロデューサー的な気質を発見しました。

プレイヤーとしてのミュージシャンとしての経験とメンタリティから、monopo創業の構想は自然とわき起こってきました。チームで何かに取り組むのが楽しかったので、会社というかたちでやってみたいと思ったんです。岡田は音楽業界だけでなく、クリエイティブ業界全体に貢献する何かを成し遂げるために必要なパートナーでした。そこに、私たちの才能あふれるクリエイターたちのネットワークが加わり、いまのmonopoを形作っていったのです。

振り返ってみると、ぼくは大学時代にmonopoを創業したので、人生で一度も正社員として働いたことがないんですよね。

ー monopoのCEOとしてのご自身の役割について簡単に教えてください。

いわゆるベーシストのような役割です。今のmonopoでは、多様なスキルセットを持つ才能豊かなクリエイティブシンカーたちを橋渡ししてサポートしているので、ちょうどバンドにおいてのベースの存在に近いかなあ、と思っています。

また、CEOとしては、継続的にメンバーへのチャンスを生み出し、国籍や文化を越えた愉しさを提供できるビジョンを打ち出す責任があると考えています。

ー なにがmonopoを特別なエージェンシーにしていると思われますか。

東京で生まれた独立系クリエイティブエージェンシーであるという意味で、monopoはほかとは異なります。私たちは、さまざまなレンズからその視点に関する知識を広め、洗練していきます。そうすることで、さらに際立った存在となり、東洋からの新しい視点をほかの国々に伝えていきたいと考えています。

日本は鎖国の時代が長かったのですが、開国後は広く世界に日本の思想を伝えるようになっています。特にITバブル以降は、日本におけるグローバルコミュニケーションの考え方が大きく変わりました。なかでも、monopoはいち早く多様性を重視したフラットでオープンマインドなアプローチを採用しています。これは、今でも多くの企業ができずにいることです。

私たちは日本の精神と慎み深さ、思いやり、匠の技へのリスペクトを大切にしつつ、あらゆる国籍、価値観を受け入れています。簡単ではないこともありますが、さまざまな壁を越えてメンバーが協力し合えるよう努めています。


初の米国進出。グローバルオフィスでもmonopoのアイデンティティを保つには?


ー このたびmonopoではニューヨークオフィスローンチの事業拡張計画をリリースしました。そのなかで最大のチャレンジになると考えられていることは何ですか。

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この事業拡張計画はとてもワクワクさせられるチャレンジングなものですし、私たち自身、どうやって、どこで、何のために取り組むのかを常に意識し、テストを続けています。

とはいえ、予想される課題は、ニューヨークオフィスのローカライズのための自由な方向性と、組織の成長に伴う制限とのバランスを見つけることです。例えば、いかにmonopoの強力なアイデンティティと組織を維持しながら、ローカライズとオフィスの個性のための余白を持たせるかなどの課題があります。

大きくなり多様化するということは、ときに質を損なうということになりかねません。最大のチャレンジは、拡大を続けながら、クリエイティブの競争力とその価値を最大限に伸ばすということです。オーケストラのように、多くのプレーヤーがひとつの楽曲、ひとつの方向性に向かって一丸となるには、しっかりとした組織体制が必要ですが、これにはさまざまな制約もともないます。

私たちがオフィスごとにブティックナンバー(人数)を固定しているのはこのためです。オープンなコラボレーションと平等な機会を実現し、各都市で独自の色を出していくことができるようにしたいのです。

ー いまは優秀な人材を確保し続けるのは大変だと思います。従業員満足度を維持するためにどのような取り組みをされていますか。

「人材を確保する」という表現はmonopoの理念にはしっくりこないですね。人々をmonopoのビジョンに巻き込んでいくというのが私たちの考え方です。そしてそれこそが、個々の満足度を維持するためにベストな方法は成長することだと思っています。みんなで共有したビジョンのなかで、各人のビジョン、パッション、さらには居場所にいたるまで会社がサポートする。

monopoをそんな場所にするために頑張っています。そもそも、monopoは「個々のタレントが集まってできた会社」ですから。私たちはいつも、成長のためのオープンな舞台を用意し、新たなコラボレーションとクリエイティブの成長を呼び起こすよう努めています。

また、単なる組織の「トップマネジメント」ではなく個々人の意志決定の成果が実感しやすいような環境を用意して、自律性に基づく有機的な成長を促しています。
加えて、スタッフの友人知人から仲間の輪を大きくしていけるよう紹介制度も充実させています。ですから、「バイブチェック」は従業員満足度と社内のつながりの重要な要素ということになります。

monopoにはメンバーがそれぞれのキャリア経験やスキルをチームにシェアする「sensei(先生)」文化があります。とはいえ、ブティックエージェンシーである私たちには必ずしも全員に常に「先生」がいるわけではありませんので、特定の事柄については外部パートナーに「先生」になっていただくコネクティングマネージャー制度を設けています。例えば私はベーシストなので、同じ音楽でもドラマーには教えられません。彼らにはやはりドラマーの先生がつくことで、成長を促しインスピレーションを得られるのではないかと思っています。

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コロナ禍でのデジタルソリューションはより人間らしさに対応すべき。いつでも国を超えたコラボレーションはできる


ー いま世界は歴史的なパンデミックに見舞われています。デジタルマーケティングや、プロダクトのローンチにおいてはどのような変化があると思いますか。

デジタルは単なるツールやサイドプラットフォームから、コミュニケーションやマーケティングの一部へと大きな変化を遂げています。とりわけパンデミック以降、デジタルはマーケティング・広告の情緒的側面や人間らしさに対応することが求められています。

新型コロナの流行以前は、デジタルマーケティングはほとんどの企業にとって数あるツールのひとつという位置付けでしたが、今では重要なソーシャルコネクターと認識されているでしょう。過去10年の間にデジタルプレゼンスのあったほとんどのブランド(ラグジュアリーブランドであっても)にとって、人の興味を引き付けるクリエイティブの制作はますます大きな課題となっているのです。

ー 最近のプロジェクトで特に手応えがあったものについて教えてください。また、ご自身のベストを引き出すために役立ったことは何ですか。

数々のプロジェクトでmonopoのグローバル・コレクティブ・クリエイティビティのビジョンを体現できていること、世界の各オフィス同士がコラボレートして新しいものを生み出していることを誇りに思っています。

例えば、南アフリカのSmollan社、米国の非営利団体Cellular Agriculture Societyのウェブプロジェクトはロンドンオフィスでデザインを担当し、東京でデジタルの開発を行いました。

最近のSONYのプロジェクトは米国・東京・パリの3都市で実施していますし、コロナ禍における同社のPRにおいて重要な位置付けであったオンラインイベントとの連携も実現させました。コロナ禍にあっても、デジタルマーケティングとコミュニケーションツールの進歩により国境を越えたコラボレーションは可能です。

そのなかでもうまくできた例を挙げるなら、Musiversal社のプロジェクトでは、クライアントは米国の会社でしたが、ブランディングと戦略などの企画はロンドンオフィスが担当し、、バーチャルシューティングはベトナムと中国で開発しました。このように、monopoを通じてクリエイティビティとイノベーション、そしてビジネスの機会が創れたということを嬉しく感じています。

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Musiversal x monopo London


ー 消費者行動が変化しているなか、機械学習やビッグデータといったテクノロジーはクリエイティブ制作の世界にどのような影響をもたらすとお考えですか。

使用するプラットフォームから得られるデータが多ければ多いほど、ショッピング体験はより効果的なものになります。ブラウジング体験はユーザーの好みやブラウザ履歴に基づきパーソナライズされるからです。しかし、このことは消費者に提示される選択肢を狭めてしまう可能性もあります。

口コミやレビューも増えていますが、これもデータとマーケティングによって歪められています。私個人は、人間の歴史を振り返って人間の好奇心というものを考えたとき、この状況は永遠には続かないだろうと考えています。人はいつも新しいものを求めており、マーケットは何かユニークで新しいものを生み出すよう求められるはずだと思うからです。

例えば、人はパンとハムしかなかった時代にサンドイッチというものを発明しているわけです。ですから、クリエイティブ業界としては、企業が独自のポジションと製品を提供できるようサポートすること、そして、Eコマース体験の実装に寄り添うことがますます重要になるでしょう。

ー デジタルの話に続き、没入型体験において、なにか新しいアイデアなどはありますか。

音をもっと効果的に伝えられるようになることですね。クリエイティブ業界にいる元ミュージシャンとしては、美しい音をより没入的な体験として楽しめるようになると信じています。また、それが人の気持ちにどのような影響をもたらし、クリエイティブコミュニケーションの共感性をどの程度強化するかにとても興味があります。

ー インスピレーションを得たいときにどこに行きますか。

実は私のインスピレーションのもとは麻雀なんです。麻雀は一局ごとにプレーヤーの戦略がまったく違ったものになります。国士無双などの戦略や、さまざまな意志決定戦略がある麻雀をプレイしていると、インスピレーションを受けてモチベーションが上がってくるんです。

ほかには、友人やパートナーたちと一緒に食事をして率直な意見交換をすることもあれば、まったくタイプの違う人たちからインスピレーションを受けることも多いですね。

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