伊吹 一

イブキ ハジメ|脚本家|1994|東京在住|第33回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作|…

伊吹 一

イブキ ハジメ|脚本家|1994|東京在住|第33回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作|映画『祝日』|TBS『埼玉のホスト』|フジテレビ『僕たちの校内放送』|映画『矢野くんの普通の日々』(共同脚本)

最近の記事

日記 2024-07-09

午前。曇り。なのに外は今日も灼熱。もわっとした暑さ。びっくりする。でもお天気がコロコロ変わること自体、なんか豊かなことだなとも思う。ずっと同じ天気じゃあんまり面白くもないし、話題もない。「暑いですねぇ」と話せることは意外と少し楽しかったりする。 下半期に入ってから、早一週間。それ以上。なんだかコリがほぐれてきている感じがある。今のままの自分でよくて、物事はそこからはじめるしかない。もう今更、全然別の自分になる必要なんかなくて。このままならない、いかんともしがたい自分を受け入

    • 日記 2024-06-30

      午後。しとしと、と雨が降っている。外に出る予定はないけれど、先日購入した傘に防水スプレーをやってみたりする。午前中はまた図書館に行った。レヴィナスの本を何冊か借りた。 今日で上半期が終わる。上半期って、会社みたいだ。「さあ、我が社の上半期についてだが…」みたいな。会社にほとんど居たことがないので、分からないけれど。上半期・下半期を意識するのは、しいたけ占いを見るときくらいだろうか。 今年の上半期はどうだったんだろう。窓外のモサモサ葉をつけた木を見つめながら、思う。脚本の仕

      • 日記 2024-06-28

        長い午睡を経て、お風呂へ。外は一日雨だったので、雨戸をしていて、外気に触れたのは、朝、最近取り始めた新聞を取りに行ったときだけだと思う。熱いお風呂に入っている間、少しだけ部屋の冷房の温度を下げておくと、出てきたときの至福が生まれる。小さな至福。小さな至福づくりができるようになると、生きるのがほんの少しだけ楽になる。好きなアーティストの新作のアルバムが解禁されていて、それを聴く。これも小さな至福だろう。これをそれと言わずして、なにをそれと呼ぶのか。 ふと思い立って、傘と防水ス

        • 会話「あまいもの/しょっぱいもの」

          ねえ、アイスクリームを食べませんか? えっ。死ぬのはどうするんですか? しょっぱいものを食べた後って、甘いものを食べたくなりませんか? でも甘いものを食べたら、またしょっぱいものを食べたくなりませんか? そしたらまたしょっぱいものを食べればいいんです。 そしたらまた。 甘いものを食べて。 そしたらまた。 しょっぱいものを食べる。 そんなにお腹いっぱいになったら眠くなりそうですね。 そしたら寝ればいいんです。 死ぬ暇がないじゃないですか。 それはそれです。

        日記 2024-07-09

        マガジン

        • 散文
          17本
        • 脚本で生きていくための「あがき」日記
          19本
        • 22時。
          30本
        • 1人でゆく、初海外・初パリ旅行記
          7本

        記事

          小学生はなぜ下校しながら走るのか

           机を窓向きにしてから数日。すこぶる調子がいい。机に向かっている時間はもちろん、机に向かっていない時間まで調子が良くなってしまった。これまで夕方の時間を執筆時間にあてていることが多かったけれど、午前から、最低限の分量をこなして、そこから午睡をはさんで、また夕方から書いたり、みたいなことすらできるようになっていて、びっくりしている。机の向き一つでここまで習慣というものは変わるものなのか、と。  今の時期は本当にちょうど気温も落ち着いているので、窓を開けながら、机に向かっている

          小学生はなぜ下校しながら走るのか

          詩「レジ袋」

          かしゃかしゃな あんたは どこまでも だ ばかだね あほだわ すきなわけないじゃない きょうはどこへいくんだい あしたはどこへいくんだい へえ そんなところまでいくのね わたしもそこでまっとくわね

          詩「レジ袋」

          机を窓向きにする。

           昨日の夕方の小雨から夜にかけて割と強い雨が降って。それが止んで、今日は曇り空だけども、鳥の鳴き声も聴こえる。多分スズメだと思う。  住んでいる部屋には大きな窓があって、それは南東を向いているので、部屋には日光がたっぷりと降り注ぐ。大きすぎるくらい大きい窓なので、嫌な人は嫌だろうけど、自分はそれが決め手でこの部屋に一年前に引っ越している。  でも机は窓向きには置かずに、ちょうど大きな窓が自分の右手側に来るような配置で置いていた。午後の日差しが強烈すぎるのが一番の理由だった

          机を窓向きにする。

          小雨がんも

          日曜。あっという間に夕方。曇天。ポツポツと小雨が降っている気配をベッドに横たわりながら感じる。夕飯の材料もないし、そういえば図書館の本も返却期限が明日に迫っている。服を着替え、自転車に乗る。 小雨は降っていた。しかも相合い傘をするカップルを見つけてしまう。あちゃちゃと思うが、気にしない。図書館で本を返し、また本を借りる。11冊。図書館の日に生まれたことが運命であると思うくらいには、図書館がずっと好き。小学校くらいから両思いなので、きっとあの相合い傘カップルよりも歴だけは長い

          小雨がんも

          映画「祝日」について(脚本担当視点)

           前作『幻の蛍』の脚本を書き終えたのが2021年の夏頃。それから約半年後、2021年の年末に新作の脚本のお話を富山チームの皆さんからお話を頂きました。お打ち合わせの内容を明確に覚えているわけではないので、あまりテキトウなことを言ってしまってはいけないのですが、一言で言えば、「自由に書いてほしい」と言われたと記憶しています。そこから、伊林監督を始め、皆さんとお話をしながら見えてきたのが今作の骨子となる、  というお話でした。  自分史的なことでいうと、この年はちょうど、フジ

          映画「祝日」について(脚本担当視点)

          『日曜のキルケゴール』

           よく晴れた日曜の春の午後、お隣にキルケゴールが引っ越してきた。私はそばを食べていた。冷たいそばだ。豚肉があったので、それをめんつゆで煮て、あったかい豚そばにして食べるつもりだったが、豚肉は腐っていた。だからただの冷たいそばにした。指定された時間よりも少し短めに茹で、ザルに上げ、きりっと水で〆る。わさびときざんだネギを用意して、濃いめんつゆで食べる。美味しい。そばは噛まずに飲むんだ、なんて言っていた叔父のことを思い出す。もう死んだ。いい人だった。  キルケゴールは引っ越しの

          『日曜のキルケゴール』

          散文「りんごを輪切りにして食べる」

          器用じゃない。字もあまりうまくない。左利きだけどそうだ。というか、左利きだからそうだと思っている。左利きは器用だと言われることがあるけれど、それは「右手と左手、どちらもある程度使える」という意味での器用で「何かの物事を精巧に行える」という意味での器用ではない。 なので。 りんごの皮を剥くのがとても下手だ。びっくりするくらい下手だ。僕がりんごの皮を剥くと、りんごのマントルの部分しか残らない。コアの部分しか残らないで、皮の残骸の方にりんごのほとんどが持っていかれてしまう。しか

          散文「りんごを輪切りにして食べる」

          散文「安西さん」

          安西さん、という知人がいた。安西さんは安西ニシヤスというペンネームでラジオの放送作家の仕事をしていた。 安西さんは酒が飲めなかった。 だから安西さんは、妻と死別したときも、娘が行方不明になったときも、酒を飲むことができなかった。 「酒が飲めたら、どれだけいいだろうな」 と安西さんは定食屋でよく話した。そう話す安西さんは、烏龍茶を何杯も頼み、それをあおるように飲み干した。 安西さんは酒が飲めない代わりに、四つ葉のクローバーを見つけるのがうまかった。安西さんの娘は、安西さん

          散文「安西さん」

          『ミネラルウォーター』

          PDF 本文  さっきホームで買ったミネラルウォーターを半分ほど飲み干し、前の座席の方に何気なく目をやると、目の前に座っている人は泣いているように見えた。いや泣いているように見えた、なんてものではない。明らかに泣いていた。ぐしゃんぐしゃんに泣いていた。肩を上下させながら、鼻をずびずびさせながら、目からは大量の涙の粒がこぼれ落ちて、彼女の頬を濡らしていた。うつむいていたので、直接顔を見たわけではないけれど、これを泣いていると言わずになにを泣いていると言うのだろう。もちろん、

          『ミネラルウォーター』

          ふて寝

          ふて寝というのは、いわば、世界にゆだねて回復する方法で、自分でなんとかマインドセットするとか、そういうのとは間逆な行為だと思っていて。 パチンと店じまいして、それで、眼を閉じてしまえば、あとはなにをどうしてくれているのかはよくわからないけれども、すやすやして、あるいは、へんてこな夢を見ているうちに、眼を開けば、もう元気が出ているという、魔法のような方法で、この自分を外側にゆだねてしまうような運動として、とても豊かなものがあると思う。 小学校低学年くらいの頃だったと思う。母

          ラジオドラマのことを少し。

          ここ数年、FMとやまさんの『西村まさ彦のドラマチックな課外授業』という番組のラジオドラマを書かせて頂いています。 初めて書いたのが、2020年の秋だったみたいなので、ちょうど3年前……。 その後、何本書いたんだろう……。気になったので、数えてみると、 と、ちょうど6本でした(ちょうど?)。 一作目の脚本を書かせて頂いたときは、まだ脚本家として活動を始めたばかりでした。そこからなんやかんやがあって、少しずつ脚本のお仕事を頂けるようになり、今はなんとか(本当になんとかではある

          ラジオドラマのことを少し。

          『バッハ的な会計をする人』

           会社員だった当時、僕は著作権処理に関する仕事をやっていたが、その隣に座っていた大仁田さんという女性は、会計の仕事をやっていた。各部が持ってきた請求書をじっと見て、それからパチパチと、パソコン画面に表示された表のしかるべき部分にしかるべき数字を打ち込み、なにかしらの結果が数字として表示されていた。  大仁田さんはいつもイヤホンをしていた。イヤホンをしていたから、人と話すのが嫌いなのかというと、そういうことではないようで、下の階の自販機で会ったりなんかすると、いつも、「今日は

          『バッハ的な会計をする人』