見出し画像

そして夏よ、今年は颯爽と駆け抜けて何処か遠い場所で休んでおくれ。

縁側に桜の花びらが一つ、また一つ降り注いでくる。 
そこに珈琲と少しのピーナッツとアーモンドを添えて座り込む。今日はひさしぶりの雲のない立派な青空でぱりっとした空気と手をつないだ風が僕の肺に入り込み、すっかり季節は変わったなと二つに割れたピーナッツを口に含む。ちょっぴり塩がかかっていて美味しい。すかさずアーモンドを口に含み、珈琲を流し込む。

今日は暑い。縁側の向こう側に見える歩道にはおばあちゃんは家族でお散歩をしていて皆そろって夏模様を身にまとって豊かな表情を連れて歩いている。もう、夏なのかな?いや、でも家の裏には桜がしているわけだから、今日は季節が混合していて稀に見れるレアな日なのかもしれないなあ。なんて思っていると庭の茂みの中から一匹の野良猫が顔を出しているのを珈琲カップの縁越しに見える。猫だ!しかも野良猫なのにぱっと見毛並みの状態も良く、随分と人間に対して可愛らしい顔を向ける猫だったので、僕はすかさずピーナッツをあげてみた。すると何となく挨拶でもするかのように鳴き声をあげ、始めは匂いを嗅ぎ、次に小さな下でぺろっ舐めて危険かどうかを確認して、最後に容赦なく一口で頬張ってまた一つ鳴いて、庭を出た先に広がる道路まで短い脚を最大限まで回転させて走り去っていた。

猫さん、もう少しいてほしかったよ。あともうそんなに家にピーナッツないんだよ、なけなしのピーナッツだったんだから頼むよ。という気持ちを一ミリも考えてくれない野良猫の肉球を目線でなぞり見上げた街はやっぱり青よりも群青という言葉がすっぽり埋まってしまうほどで、それはきっとこの空を凝縮して目に入れると全細胞が潤いを取り戻してしまうほど気持ちよく、初夏の始まりを告げているような気がする。

風にのって桜の花びらが珈琲カップに当たる。

今年の春はそろそろ終わりそうな気がする。それと数年間は春の所在の滞在時間が短いように思えていたが、今年の春は意外にも長く美しさを保ったまま居座ってくれていた。春よ、これからもよろしくお願いします。

そして夏よ、今年は颯爽と駆け抜けて何処か遠い場所で休んでおくれ。

そうでないと困る、こちとら学校があるんだよ。例年のように世界は回っていない、本当に頼む。

なんておそらく届く筈のない願いを若干夏の風に漂わせて、底が見え始めた珈琲と二、三粒残ったピーナッツとアーモンドを一気に口に頬張り、肉球をチラッと覗いて縁側をあとした。

この記事が参加している募集

毎日マックポテト食べたいです