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黒魔術とスーパースター つまりは職人の仕事について

好きな店がまた出来た。
全然気取っていない。でも安物臭さは一切ない。
「ちゃんと」している。でも「どや」な顔はしてない。
パン屋さんかつお惣菜屋さんなのだが、
ランチタイムにはちょっとしたフレンチもいただけるらしい。
フレンチの職人からの独立して店をひらいたという経歴を知って納得。
わたしは相変わらずあほのひとつ覚えであのサンドイッチを食べるけど。
ひさびさに行った行けたランチ時に、事件は起きた。
 
その客が入って来た時から嫌な感じはした。
ええとこのええもん食べ慣れておられる感じの御夫婦だ。
身なりや、立ち居振る舞いが、そのような。
イートインというか、店の奥の座席たちはそう多くない。
ご夫婦はご予約をされていた。
よく来る御常連のようで、
来店し着席されると同時に厨房からシェフが挨拶に来られる。
早速、サラダと、パンを持った皿というか籠が置かれ、
ご夫婦は品評されながらランチをお進めになる。
 
ちいさなお店は混みだす。
 
もう一組、予約をされていたお客さんが来た。
若い女子の2人組だ。
従業員の女性が渡したメニューを見、散々迷い、きゃっきゃしてる。
悩みに悩んで、注文を決めた。
早速、向かい合わせの2人が寄って自撮りもしたりして。
 
御夫婦のうちの、奥様が、ぶつぶつと言いだした。
お連れ様はお手洗いに立たれたみたい。
何を言っているかは、わからない。
でも、まるで呪文か黒魔術。
ごめん、失礼。
でも、こちらまで不安かつ落ち着かなくなった。
耳までカリッとしたパンを齧るスピードが遅くなるというか手も止まる。
ああー。

そして、彼女は机を叩いた。どんどんどんっ。
かっかっかっ、とか、ちっちっち、とか、
歯だったかなんだったかを厨房の方に響かせて。
従業員の女性が飛んできて、奥様はのたもうた。
「ちょっと、こちらのオーダーがまだなんやけど」
「え?」
「私たちの方が先に来てるのになんかおかしいでしょ?!」
平謝り。
 
厨房からシェフが飛んできた。

ひらり。

マント、じゃねぇや、
ぴかぴかじゃなく、
パンをこねて焼いて料理を作っているからこその作業が滲む厨房服で。
でも、ひらりと飛んできたというか、
音がした気すらしたような身のこなしで、
ご夫婦のパン幾つか盛られた籠(?)に、ひらりと、何かを置いて、
「これ、今日一番の」みたいなことを言い、
またさっと厨房に帰っていかれた。身をひるがえすようにして。

ご婦人は「まあ」なんて満更でもなさそうな表情になり、黒魔術はやむ。

若い女子たちは先程からまだきゃっきゃやってる。

私はほっとして、 かりかりのトーストサンドを食べ終える。

ほっと、と、ぐっとと、ドキリと。

ドキリ?

うん。

ひらり、の際。
 
一瞬、一瞬やけど、
ひらりと帰る際に目が合った。
合った瞬間、ウインクとまではいかない、
けれど、ちょっとニコ、と、笑顔を下さった。
そんなニコ、を、残したまま、ひらり去っていかれた、
もとい、仕事に戻られた。

「大丈夫」「わかってる」「楽しんで」
 
それは一瞬の出来事。
 
ほんとうにオーダーが後回しにされたのか、
それとも、予約時に「ランチのコース」ってもう頼んでいたから
オーダーを聞きに来なかったのかは知らないわからない。
サラダとパンは来ていたし、
なんかお高めのワインの注文も最初にされていたようだし。
なので、真相はわからない。でもそんなことはどうでもよい。
すぐに食べ終わって出たのでその後のことも知らぬ。
 
でも。
 
ひらりと、ウインク。

すべては幻だったのかもしれない? 

いや、幻じゃない。



以前の記事はこちらです。職人。仕事。


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【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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