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#短編小説

居酒屋にあるアレ

居酒屋にあるアレ



トイレの中でこんにちは。

トイレの中まで大変失礼致します。
でも、ここが一番ゆっくりお話の出来る
場所だと思い、筆をとらせて頂きました。
約束の品は、ラバーカップの裏に複数あります。
お気に入りのブツはありましたでしょうか?
少しでもお気に召さない点がございましたら
どうぞご遠慮なく、店長に扮したその手の者までお申し付け下さい。
責任をもって善処させ

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好き嫌い

好き嫌い



 男が徐にカレー苦手だというので
「カレーが嫌いな人間が存在するとは…」
とこぼすと、不特定多数の普通を正解とするな、と怒られた。
 一方的に言われて気分が悪い私は、しばらくしてから
「私は花束が嫌いだ」
と不意をついてしゃべりかけると
「花束を貰って喜ばない女がいるとは…」
と宣ったので、しつこいほど揚げ足をとってやった。
 「しかしお前が死んだとき、棺の中に何を入れれば良いのだ」
などと問

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2021年成人の日

2021年成人の日



「今日からあなたは大人です」
 なんて定められても、私はまだまだ甘ちゃんで、「じぇじぇじぇ」なんて言ってみたけれど小学生時代の朝ドラのことを覚えている友は極めて少ない。
 何が正解なのかちっとも分からないまま振袖を選び「どんな髪にしたい?」など問われても、今までの人生にヘアーアレンジなんてとんと縁がなかったものだから、何の気なしにSNSで見つけた成人式のヘアーを願う。
「今日からあなたは大人で

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ゾクゾク虫

ゾクゾク虫



季節の変わり目などに、ふと悪寒を感じたかと思ったら、途端に高熱が出たりする。
それはゾクゾク虫の仕業だ。
 ゾクゾク虫はとても小さな虫で、なかなか肉眼で見つけることが出来ない。
ゾクゾク虫に刺されると、背筋が震えて発熱したり、咽が痛くなったり、咳込んだりする。
主に冬に活動をし、しかし時たま夏に刺される者も出る。
 このゾクゾク虫を駆除しようと、世界中の専門家が躍起になって薬を開発し、ついに完

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マスクのある日常

マスクのある日常



 駅前に新しくできた写真機は、とびきり綺麗に写ると若者の間で話題だ。
 中でも特にマスクを美しく写すようで、写真館で撮影するよりも綺麗に仕上がるそうだ。
 流行に敏感な私の娘も興味があるようで、撮影の為の支度をしていたが身に付けたマスクから鼻先が覗いている。
「極めて破廉恥! 嫁入り前の娘が何をしてる!」
 と叱りつけた所
「これが流行ってんの!」
 と一瞥された。
 マスクの下というものは、

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サンタクロースを倒した日

サンタクロースを倒した日



サンタクロースというヤツは、子どもたちの欲するプレゼントが何であるかを探るために十月頃から傍に潜んでいるらしい。
それを聞いた僕は俄然、今年こそはあのひげ面にいっぱい食わせてやろうと、サンタクロースを捕獲する作戦を練った。
 僕は、ヤツをおびき寄せる為に『サンタさんへ』などと記された封筒を、勉強机の上に掲げ、足下には狩猟にて鹿等を捕獲する際に使用するトラバサミを設置した。
 トラップを仕込んだ

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空飛ぶベッド

空飛ぶベッド



 熱があると見上げた天井が回転して見えるのは何故だろう。
社会人になると風邪を引いただけで自己管理がなってないと揶揄されるが、そういうお前は肝臓にガンを患っているじゃないかと反発したくなる。が、身体中の熱が私のシナプスをたゆませていて行動に移せない。おそらく、熱が綺麗さっぱりなくなったとき、未来の私は過去の、厳密には今の私の行動に感謝するということも薄ぼんやり分かるので定時まで業務をこなした。

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