ゾクゾク虫
季節の変わり目などに、ふと悪寒を感じたかと思ったら、途端に高熱が出たりする。
それはゾクゾク虫の仕業だ。
ゾクゾク虫はとても小さな虫で、なかなか肉眼で見つけることが出来ない。
ゾクゾク虫に刺されると、背筋が震えて発熱したり、咽が痛くなったり、咳込んだりする。
主に冬に活動をし、しかし時たま夏に刺される者も出る。
このゾクゾク虫を駆除しようと、世界中の専門家が躍起になって薬を開発し、ついに完成した。
その薬品は見事なもので、あれよあれよという間に、一匹残らず消え去ってしまった。
それはつまり、発熱、咽の腫れ、咳、鼻水、などを消し去ると同義で、人々は大変幸せに暮らした。
ところが、この世界からゾクゾク虫がいなくなった矢先、とある研究家がゾクゾク虫の新たな生態に気がついた。
ゾクゾク虫は、体調の悪化を伴うゾクゾクだけを引き起こすのではなく、体感的なゾクゾクを誘発させる力も持っていたのだ。
例えばそれは、恐ろしいほど高い岩場で足を滑らせたときに、間一髪助かった時のゾクゾク。
怪談話をされてひどく感情移入をしてしまったときのゾクゾク。
通り魔が人を刺し殺した道が、いつも自分が利用している道であると分かったときのゾクゾク。
己の身の危険を察知する際に感じるゾクゾクもまた、ゾクゾク虫の仕業であった。
研究家はその事実を発見し
「そうだったのか!」
と大きく頷いて、ただただ頷いて、それから大きく伸びをして、終わった。
ゾクゾク虫がこの世界から消え去った今、人々はとても幸せそうでのんびりしている。
高額な税金を求められても、低賃金で働かされても、ちっとも不安でないのだ。
テレビでは第四次世界大戦に関する報道と、国民が戦場に駆り出される様が映し出されているが、皆一様にのほほんとしていた。
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