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ライフサイクル

「ママはどうして、物を捨てるときに『ありがとう』って言うの?」

「どうしてだろうねー。ありがとうって思ってるからだよ。」

幼児用ペダル無し自転車を売った時の会話だ。

「このバランスバイクのおかげで、自転車に乗れるようになったでしょ。ありがとう、じゃない?」

沢山思い出が詰まっているので少し名残惜しいが、ズルズルととっておいてもしょうがない。ペダル付き自転車に乗るようになって以来、いつも留守番で埃が積もっていくバランスバイクも可愛そうだ。

買ってくれた初対面のママが、待ち合わせ場所で車を降り、友達のように大きく手を振った。簡単に使い方を説明してから自転車を渡すと「軽いわね!どこにでも持っていきます!」と満足そう。この人達に使って貰えて良かった、と心から思った。車のドアは開けたままで、ベビーシートに座る2歳児がじっと自転車を見ている。「これ、あなたの初めての自転車よ!」と母親がニコニコ。幼児はきょとん。

記憶が蘇る。やはり私達も、小さな息子の初自転車にワクワクしていた。2歳前後だった子供達が、はつらつと乗り回していた日々。今後、このバランスバイクは再び、車の中の2歳児を楽しませながら乗り方を教えるのだろうと想像する。こんな時によく、毎年同じ場所で卵を温める白鳥を思い出し、人生のサイクルを感じる。雛達はあっという間に大きくなるので、長い年月をかけて大人になる人間と比べて成長が分かり易い。こうして子供用品を手放しながら、子供達の巣立ちに向けて、私は自分の心の準備もしているのだ。次はベビーカーを手放す番だ。

物の処分は、購入以上に手間がかかる。しかし、必要な時期に存分に使い、時期が過ぎたら良好な状態のまま必要とされるところに渡せれば、良い物を手に入れた時と同じ位幸せだ。以前、ウクライナから女性や子供達が国外に避難を始めた頃、受け入れ先のポーランドか何処かで、国境近くに中古のベビーカーが何台も用意されていた記事に感心した。

物を大切にすることで豊かになる。それは、沢山買うことでも無ければ、必ずしも持ち続けることでも無いと思う。整理しながら、物の流れを考え、社会や世界との些細だが確実な繋がりを感じる。物が増え続けることで一見豊かになった時代は通り過ぎ、現代は逆に物を減らして自然に戻っていく番だと信じたい。物質主義がウェルビーイングに繋がらないことが明らかになってきたり、SDGsが設定されたり。更には、所有物というほぼ人間特有の概念も薄れていくかもしれない。車もオフィスも洋服も、シェア文化が広がってきている。

そんなことを考えながらも、駅で「ママが好きなゴミ箱だよ!」と笑う息子に教えて貰い、おやつのパッケージやティッシュなどポケットいっぱいに溜まったゴミを捨てるような、地球には申し訳ない毎日だ。

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