作品リスト ○ダッシュエックス文庫 ・モノノケグラデーション(2015年) ・モノノケグラデーション2(2015年) ・その10文字を、僕は忘れない(2016年) ・異世界サ活〜サウナでととのったらダンジョンだ!〜(2022年) ○講談社ラノベ文庫 ・二線級ラブストーリー(2015年) ・彼方なる君の笑顔は鏡の向こう(2016年) ・真面目系クズくんと、真面目にクズやってるクズちゃん #クズ活(2017年) ○ガガガ文庫 ・パパ活JKの弱みを握ったので、犬の散歩をお願い
第11話「ひいては世界は変わっていく」 中村さんの残業時間をいたずらに増やすわけにはいかない。私たち三人は空いている会議室に集まるとすぐに企画会議を始めた。 中村さんとオーランドさんは手分けして、台風10号に対する人々の反応を各SNSや掲示板で調べ始める。 私は気象庁のホームページなどで、台風10号の詳細な情報を収集する。 「SNSだと、気にしてる人ほぼいないなぁ。まだ発生したばかりとはいえ、本州に上陸する可能性もあるんだし、もうちょっと意識してくれてもいいよね」
第10話「そう、娯楽なんですよ」 振替休日の水曜日。 昨日の飲み会の名残は、頭には残らずとも顔には表れていた。 「顔、パンパンかよ……」 帰宅後も缶ビールを2本も開けたのだから当然だ。ひとまず浴槽の蛇口を捻った。 浴室から響く流水音を耳に、テレビをつける。いつもは会社のテレビで、仕事しながら意識半分で見ている朝のワイドショー。パジャマを着たままボーッと眺める。 『さてCMの後は、SNSと炎上について、詳しく……』 指が自然とリモコンの電源ボタンを押す。もは
第9話「ポケニューは、誰の為にあるんだ?」 「蒼井。次の日曜、1人でトップページできるか?」 玉木さんにこう告げられたのは、トップページに慣れを感じ始めた時のこと。 初めて昼ピークでの目標超えを達成した日から1週間。 その後も私は何度かトップページを任され、それなりの結果を出した。しかしそれはすべて中村さんのサポートありきであったがゆえ、自信へと昇華されるにはまだ足りなかった。 そんな中、ついに独り立ちの機会を得た。 「トップページを担当するはずだった山田が法事
第8話「批判に良いも悪いもあるんですか?」 ポケニューでは1時間ごとに稼いだPV数を計測している。毎時間、目標数値が設定されており、私たちはそれを目指して運用している。 もちろん朝と昼のピークタイムの目標数値は他の時間帯と比べて高く、トップページを始めてすぐの頃はまるで届かなかった。 それでも私は挑み続けた。何本でも記事をあげ続けた。 遅番に引き継いだ後は中村さんと反省会。 なぜこの記事がダメだったのか、どんなタイトルが良かったのか。彼を質問攻めにし、知識を高
第7話「僕は初バズり、素直に脳汁でしたけどねぇ」 金曜の夜、私と中村さんとオーランドさんはビアバーから退店。最近ではこの3人で飲みに行くことが多くなっていた。 真っ赤な顔のオーランドさんは、私と中村さんに向けご機嫌な笑顔を見せる。 「あー楽しかったぁ。やっぱ2人とも面白いっすわー」 中村さんはそんな彼に、芝居がかった口調で告げた。 「どうせ誰にでも同じこと言ってるんでしょ」 「イヤだな~そんなわけないじゃないっすか~」 そうしてオーランドさんは中村さんを背中
第6話「あの3人の世界には私なんて必要ないの!」 「蒼ちゃんセンパーイっ、金曜の夜空いてますー?」 「……っ」 オーランドさんは出勤してすぐ、私のもとへ駆け寄ってきた。 その声を聞いた直後、ブルっと身体に悪寒が走った。 「知り合いが読書カフェなるものをオープンしたらしくて、割引券もらったんすよー。なんで一緒に行きましょー蒼ちゃん先輩。たしか読書が趣味って言ってましたよね?」 「……私は」 「え、なんすか?」 「私は、読書が趣味ではないです」 「え? でもこの前、飲み
第5話「有名人の結婚って離婚と比べて話題が長引かないんだよなぁ」 「えっ、オーランドさんってハーフじゃないんですかっ?」 「違いますよー。ハーフじゃなくて、キラキラネームっす」 「そうなんだよね。僕もしばらく勘違いしてたよ」 金曜日、新宿の靖国通り沿いのビアバー店内は、近く遠くで様々な声が交差する。 クラフトビールの注がれたグラスを手に、中村さんは職場よりも砕けた口調、オーランドさんはいつものテンション。 3人、何でもない話で盛り上がる。 恋愛相談という余計すぎ
第4話「エモーションに貴賤はない」 まさか本人たちから対立の原因を聞けるわけにもいかない。 そこで私たちはまず、玉木さんと中村さんに関する情報の収集を始めた。 私はポケニューで働く他の同僚から、人脈のあるオーランドは他の部署から、あくまで世間話の延長として探る。 2人の個人的な情報や、諍いのタネになり得る出来事があったかどうか。オーランドさんとは密に連絡を取り合い、カフェテリアなどで情報共有する。 探り始めて1週間だが、集まった情報に有用そうなものはなかった。
第3話「芸能ニュースの9割はどーーーでもいい」 ポケニューが稼働している時間は、緊急速報が入った時を除けば7時から23時まで。シフト制になっていて、早番は7時から16時、遅番は14時から23時まで勤務する。 教育係の中村さんは主に早番である為、私も入社して以来早番に入っていた。7時出社なので起床時刻もとびきり早いが、帰りも早く、満員電車にぶつからない利点もある。 ただ今後の編成によっては遅番に回る場合もある。なので私は数週間、夜のポケニュー運用を体験することになっ
第2話「求めているのは知識じゃない、エモーションだ」 運用を始めて半月ほど。私は大きなヒット記事を生み出すどころか、毎時または毎日の目標PV数にも達していない。 記事を上げては伸びずに下げる、という行為を繰り返していると、まるでユーザーに「おまえにはセンスがない」と告げられている気分になる。 理想と現実の乖離が目に見えて広がっていくほど、モチベーションは低下する。そしてモチベーションが低下するほど、集中力は散漫になる。 私はついには、とんでもないミスをしてしまった。
あらすじ IT企業に入社した新卒女子の蒼井花は、配属されたネットニュースの部署・ポケットニュースにて早速挫折を味わう。 ネットニュースで世界を良くしたいと、そんな野望を携えている花。 にもかかわらず社会の何の役にも立たなそうな芸能人の不倫ネタなど下世話でどうでもいいネタばかりが重宝される業界に嫌気が差していた。 だが皮肉屋の編集長・玉木修や教育係の上司・中村将生との日々の中で、その感情は少しずつ変化していく。 ネットニュースの運営現場から送る、社会の役に立ちそうで
○場所:養成所のスタジオ 養成所の授業は週に2回。18時半から21時まで。 だいたいはネタを講師に見てもらう、いわゆる「ネタ見せ」だ。 ただ日によってボイトレや演技指導などが入ることもある。 今日は「ダンスレッスン」の授業だ。 ダンス講師 「はいリズム良く、ワンツーワンツー!」 講師の声に合わせて養成所生たちは踊る。 楽人 「(こんなの芸人に必要ないだろ……と言いたいが、 リズム感がねえ奴はセリフの間が悪かったりするんだよな。 高ぇ学費払ってんだ。全部
○場所:龍雪の部屋 ??? 「…………」 楽人 「な、な……!」 突如、龍雪の部屋に入ってきた謎の美少女 楽人 「(水野こいつ……ヘロヘロふにゃふにゃの童貞ヅラしやがって、 意外とやることやってん……!?)」 ??? 「お兄ちゃん、この人は?」 楽人 「(ですよね~)」 一気に脱力する楽人。 龍雪は答える。 龍雪 「あ、相方だよ……へへ」 ??? 「……ふーん、できたんだ。よかったね」 龍雪 「あ、船橋くん……妹の兎衣(うい)」 楽人 「あ、ああどうも。相方
あらすじ 元不良の船橋楽人、弱気で小心な水野龍雪。 同じお笑い養成所に通う2人の共通点は、誰よりもコントを愛し、コント芸人に並々ならぬ憧れを抱いているということ。 いじめられている龍雪を楽人が助けたことがきっかけで、楽人は龍雪のネタ書きとしての非凡な才能を知り、2人はコンビを結成する。 お互いに不遇な人生を送ってきた楽人と龍雪は、テレビでのコントに救われた過去がある。 ゆえに自覚する。自分たちは『コント師』でなく、コントをして、コントのことを考えていなければ生きられな
持崎湯葉です。 『恋人以上のことを、彼女じゃない君と。』シリーズが完結しました。 本当にありがとうございます。 なので、あとがきを書きます。 なので、現在ここで筆を取っております。 「なんでじゃい」と思った方も、「今更かい」と感じた方も、 ぜひ付き合っていただければ幸いです。 ちなみにnoteでのあとがき投稿について、 ガガガ文庫様より許可はいただいております。 なぜ本編であとがきを書かなかったか。本シリーズを読んでくださった方ならご存知とは思いますが、 『恋人以上