『コントシ!』第2話
○場所:龍雪の部屋
???
「…………」
楽人
「な、な……!」
突如、龍雪の部屋に入ってきた謎の美少女
楽人
「(水野こいつ……ヘロヘロふにゃふにゃの童貞ヅラしやがって、
意外とやることやってん……!?)」
???
「お兄ちゃん、この人は?」
楽人
「(ですよね~)」
一気に脱力する楽人。
龍雪は答える。
龍雪
「あ、相方だよ……へへ」
???
「……ふーん、できたんだ。よかったね」
龍雪
「あ、船橋くん……妹の兎衣(うい)」
楽人
「あ、ああどうも。相方っす、はい」
兎衣
「……どうも」
怪訝な表情で楽人を見る兎衣。楽人はそれに首を傾げる。
兎衣
「お兄ちゃん、バイト先から小さいホールケーキもらってきたけど、
食べる? ……船橋さんも」
船橋
「(嫌そう……)ケーキいいっすね。食おうぜ水野」
水野
「うん。あ、でも……昔のネタ帳見てたら、
また別のネタが浮かんできて……」
船橋
「おお! すげえクリエイターっぽい!」
水野
「へへ……だから船橋くんは、先に食べてて。
兎衣と一緒に」
船橋・兎衣
「…………え?」
○龍雪の家のダイニング
テーブルにつく楽人。
兎衣はキッチンでケーキを切り分けている。
気まずい空気が流れる。
楽人
「あーっと……何か手伝う?」
兎衣
「結構です」
楽人
「えっと、ケーキ屋でバイトしてるの?」
兎衣
「大学の近くのカフェで」
楽人
「あ、大学生なんだ」
兎衣
「はい」
楽人
「学校楽しい?」
兎衣
「はい」
●楽人モノローグ
会話が続かねえ……!
ていうか向こうが続ける気ねえんだよな……
野良犬を見るような目で見やがって……大学生様がよ。
水野もよぉ、初対面の妹と、ふたりきりにさせるかね。
気が利かねえっていうか、もはや奇行の類だろ。
相方として、この先が不安だぞ俺は。
水野の妹……顔はかなり可愛いな。
でも、相方の妹に手ぇ出すなんて、フリートークのネタにもなりゃしねえ。
そもそも愛嬌のカケラもねえ相手に……
兎衣
「どうぞ」
楽人
「あーどうもどうも!」
「いやーケーキなんて何年ぶりかな!
じゃあ早速……」
差し出されたケーキに、楽人は目が点になる。
皿の上のケーキは、ペラペラな細さだった。
楽人
「あの……(この立っているのがやっとの
ガリガリに痩せ細ったケーキは、一体……)」
兎衣
「どうぞお召し上がりください。
おかわりもよろしければ」
楽人
「あ、あはは、どうも……(え、おかわりくれるの?
この薄さで出しておいて、おかわりアリなの?)」
兎衣は意地悪な顔で笑う。
兎衣
「芸人を目指しているのに、
リアクションが薄いですねぇ」
それには楽人もカチーンとくる。
楽人
「はは……妹さんね。
俺、大学にも行けないようなバカなんで、
はっきり言ってくれないと分かんないんすよ。
ぶぶ漬け出されても喜んで食い散らかしちゃうんすわ」
兎衣
「…………」
楽人
「結論、どっちなんすか?
俺が気に入らないのか。
それとも……お笑いが気に入らないのか」
兎衣は厳しい表情で答える。
兎衣
「後者よ」
楽人
「(校舎?)」
兎衣
「お兄ちゃんが芸人なんて、考えられない」
楽人
「(ああ、後ろの方ってことね)」
兎衣
「養成所なんて勝手に行って……
『相方ができない』って言ってたから安心してたのに……
まさかこんなに早く家に連れ込むなんて!」
楽人
「連れ込むって……
そもそもなんで芸人をやらせたくないんだよ」
兎衣
「芸人なんて下品でサイテーな男ばかりだからよ!」
兎衣は顔を真っ赤にして本音を吐き散らかす。
兎衣
「やれナンパだ、やれ風俗だって、
芸人はみんなゲスい事ばっか言ってるじゃない!
モテる自慢のために『何股した』とか言って、気持ち悪い!」
楽人
「おいおい、それは偏見だろ……。
ちゃんと芸に向き合って一生懸命の人もいるぞ」
兎衣
「でも、クソ男もいっぱいいるんでしょ?
そういう先輩とかに龍雪が目をつけられたらどうすんのよ」
楽人
「いやそんなことは……」
○回想
チャラ男③
「俺たち今からナンパするんだけど、水野くんもやろーや」
チャラ男②
「俺たちがここで見てるからさ、ちょっと女の人に声かけてきてよ」
○回想終わり
楽人
「(あったなぁ……今日まさにそんなことが)」
兎衣
「そんな薄汚い世界でお兄ちゃんがやっていけるわけない。
アイドル事務所とかだったら応援してあげたのに……」
楽人
「ん?」
兎衣
「お兄ちゃんは顔がいいから、
ナンパなんかしたらホイホイ女が寄ってくるに違いない!
そこで変な女に捕まったり……!
もしくは女に飢えすぎた売れない芸人が、
お兄ちゃんのことを性的な目で見たり……そんなの嫌ぁ!」
楽人
「(あぁ……要は重度のブラコンなのね、こいつ)」
頭を抱える兎衣に冷ややかな目を向ける楽人。
楽人
「よくわかったよ、妹さんの心配は。
そういう先輩がいたら俺のところで止めておくから。
女遊びが良い方向に働くタイプでもないだろうしな、あいつは」
そう言ってなだめる楽人に、兎衣は怪訝な目。
兎衣
「まずあんたのことが信用できないんだけど。
目つき悪いし、柄の悪いカッコして、田舎のチンピラみたい。
いかにも女癖悪い芸人って感じ」
楽人
「見た目ほど悪い奴じゃねえぞ俺は」
兎衣
「自覚してるなら直しなさいよ」
楽人はひとつため息をつき、落ち着いて語る。
楽人
「妹さんはお笑いに興味がないみたいだから、分からないだろうけどな、
あいつほどコントが好きな奴はそうそういねえぞ」
兎衣
「…………」
楽人
「あいつがどんな人生を歩んで、
どんな思いで養成所に入ったのかは知らねえけど……
あのネタ帳を見たら本気さは伝わってくる」
●楽人モノローグ
高校時代に書き溜めたっつーネタ帳には、
センスのねえ悪戯書きみたいなものもあった。
それでも、その次のページも、ずっとずっと、
ネタは書き続けられていた。
バカどもの悪戯くらいじゃ、
コントへの情熱は消えなかったってことだ。
楽人
「俺はあいつのコントへの熱に賭けて、相方になったんだ。
だからあいつにとって悪いことがありゃ、俺がそれを防いでやるよ」
兎衣
「…………」
楽人
「俺があいつを、日本一のコントコンビの、ブレーンにしてやる。
だから、俺に任せろ」
沈黙する両者。
兎衣
「……ていうか、その龍雪は何やってんの」
楽人
「……確かに。ネタの触りだけ書くって言ってたけど、
遅すぎるな」
ふたりは揃って龍雪の部屋へ。
扉を開けると、龍雪はコントのDVDを見ていた。
楽人・兎衣
「おぉい!!」
龍雪
「ぴぃっ!?」
楽人
「お前、相方と妹をふたりきりにして何やってんだよ!」
兎衣
「早く来なさいよ! 私に何かあったらどうするのよ!」
楽人
「ねえよ!」
龍雪
「え、えっと……ネタの構想を練ってたら、
ウインターランドさんのネタと似てることに気づいて、
参考にしようと……」
兎衣
「後にしなさいよそんなの!」
プリプリ怒る兎衣。一方で楽人はテレビに食いつく。
楽人
「ああっ、これウインターさんの単独じゃん!
懐かしー、高校の時に借りまくったわ!」
龍雪
「へへ……これ、6年前の単独のやつ」
楽人
「あーこのパッケージのやつな!
この年だと俺アレが好きだな。夜逃げのやつ」
龍雪
「み、見る?」
楽人
「良いのか?
ネタの参考に見てるんだろ?」
龍雪
「後でいいから……へへ」
兎衣
「むぅぅ……!」
盛り上がる龍雪と楽人を見て、不満そうに頬を膨らませる兎衣。
しかしふと、龍雪の横顔を見て、回想する。
○回想
父親の前に立つ小学生時代の龍雪。兎衣は影から見ている。
龍雪
「お、おとうさん、これ……」
父親
「…………(テストの答案を破る)」
龍雪
「え……」
父親
「100点以外は無価値だ」
父親は、ビリビリに破いた98点の答案を捨て、去っていく。
龍雪は無言でそれを拾い集める。
小学校の教室でも、龍雪は孤立していた。
いじめられるでもなく、ただただ無関心の存在だった。
そんな姿を兎衣は見てきた。
そんなある日、兎衣は、目を輝かせてテレビにかじりつく龍雪を見る。
テレビに映っていたのはネタ番組のコントだ。
兎衣
「なに見てるの?」
龍雪
「お笑いのコントだよ。
いいなーこれ。僕もやりたいなー。
僕もこうやって、みんなを笑わせたい」
兎衣
「漫才じゃなくて?」
龍雪
「漫才は無理だよ!
だって僕は面白い人間じゃないもん!
コントは僕じゃなくなれるから、いいんだよ!」
兎衣
「よくわかんない」
○回想終わり
楽人と一緒にコントを見る龍雪の横顔を見て、
あの日を想起する兎衣。
楽人と龍雪は笑い合い、ネタの構造などについて意見し合っている。
そんなふたりの背後で兎衣は、静かに部屋を出て行った。
2時間ほど経ち、テレビにはエンドロールが流れる。
楽人
「くあーっ、結局全部観ちまったぁ!」
龍雪
「ウインターランドさんの世界観、いいよねぇ」
楽人
「でもアレはあのふたりだから醸し出せる世界観だしなぁ。
マネしないほうがいいよなぁ……ん?」
ふと振り向く楽人。
テーブルにはいつの間にかお盆が置いてあった。
そこにはふたり分のケーキ。
どちらもちゃんとした大きさに切り分けられている。
それを見て、楽人は小さく笑うのだった。
○龍雪の家の廊下
楽人
「やべー、コント見てケーキ食ってたらこんな時間じゃん。
終電ギリギリ」
龍雪
「あれ、兎衣はどこだろ」
楽人
「こんな時間だし寝てんじゃね。
ケーキ美味しかったって言っといてくれ」
龍雪
「わかった」
楽人
「それじゃ……と、その前に、トイレ借りるな」
龍雪
「うん、その扉」
楽人は扉に手をかける。
龍雪
「あ、でももしかしたら兎衣が……」
扉を開けると、風呂上りで下着姿の兎衣がいた。
目が合って数秒、兎衣は真っ赤な顔で楽人をぶん殴る。
兎衣
「やっぱりゲス男じゃねーか!!!」
楽人
「グボォッ!」
倒れる楽人、勢いよく閉まる扉。
龍雪はそんな光景を見て、慌てて告げるのだった。
龍雪
「ごめん、ウチ脱衣所とトイレが一緒なんだ」
楽人
「見りゃわかる……」
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