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不確実な人間のエッセンス:スポーツのDXの先

1.野球の守備フォーメーション、将棋の囲い、そしてデータ

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーはろー。お久しぶりです。

お久しぶりです。コイさん、美味しそうなもの飲んでる。

ーブラッドオレンジスムージー。
最近は、野菜とか果物とかよく食べてますよ。

いいですね。
睡眠と栄養とるのと、気分転換がヘルシーライフには大事。

ーあと早く帰れるようになったし爽やかな季節だから、本当は野球見に行きたいけどね。

まあねえ。
そういえばコイさんの影響で、野球のDX(デジタルトランスフォーメーション)を気にするようになったけど、友達に話してみたら反論された。

ー私の受け売りですか。笑
で、なんと言ってました。

「大リーグは、データに頼りすぎてて面白くない。選手育成には良いかもしれないけど、試合展開まで頼りすぎ」って。
マネーボールのサクセスストーリーに真っ向反対だね。

(あらすじ)1990年代末、オークランド・アスレチックスは資金不足から戦力が低下し、成績も沈滞していた。
新任ゼネラルマネジャーのビリー・ビーンは、かつて将来を嘱望されながら夢破れてグラウンドを去った元選手。彼は統計データを用いた野球界の常識を覆す手法で球団改革を実行。チームを強豪へと変えていく――

ーなるほど?笑

試合の各局面の最適解がデータ分析でわかると、それに従うだけになって、現場での選手の自主的な判断、人間の自律性が失われる。

ーふむ。

その結果、試合のダイナミックさが無くなる、だそうです。

ーほう。アツい反論ですな。

コイさんの受け売りだったから、私の発言はそこで止まった笑。

ー笑。
そもそも、野球に限らずスポーツの戦略において、データ活用って目新しくはないよね。
攻めの局面では、こういうフォーム組むとか。

確かに。
あと知的スポーツもそうだよね。将棋の囲いとか、囲碁の定石とか。

ーそうね。
そういう決まった「型」は、多くの試合の結果、つまりデータをもとに編み出されてきたわけでしょう。

そうか。わたし、それで昔、将棋に挫折したなあ。「囲い方」を覚えるのがつまらなくて…。
かといって自由にさすと、すぐ負けるし。

ースミさん、弱そう。俺は強いよ。笑

2.データに基づく「最適解」を実現する、だけ?

図23

うるさい。笑

ー笑。

でもそうだとすると、野球なら、「この局面ではこういう球を投げる」「こういう球が来るはずだからこっちに打つ」みたいな、データに基づく最適戦略があるはずじゃん。

ー(無言)

それをいかに精緻に現実世界で実践できるか、っていうゲームになるってこと?
それはつまらない感じがするし、人間の頭つかわなくなりそう。

ーそうでもないんだなあ。

そうなの。笑

ースミさん、野球選手がどれくらい打てるか知ってる?

知らない。

ーたとえば、2019年のセリーグの打率で最高でも、0.335。
つまり、プロでも30%弱しか打てないんだよ。

そうなんだ!
ということは将棋とかと違って、「最適戦略」がなかなか実行できないってことか。

ーそう思うよ。

なるほど。
じゃあ、過去のデータ分析結果がある一方で、現場での人間の不確実性は引き続きあるから、むしろ現場の知略はより求められるのかもね。


ーそれに、投げ方とか打ち方含め、試合中のデータが観客にも見える化、シェアされるようになったでしょ。
観客自身も、よりゲームの戦略を追体験できるようになった。

なるほど。
確かにサッカーとかだと、単に画面にボールを追いかける選手が映ってるだけだから、どういうことが起こってるのかなかなわからないや。笑

ー笑。
だから野球も、プレー側も見る側も、DXで面白味が増してると思うな。

3.テクノロジーが浮き彫りにする人間の面白さ

図24

現実世界で何かを実行する人間の不確実性が、面白い結果を出すエッセンスになってるんだね。

ー実行するフェーズだけとは限らないよ。

と、言いますと?

ーほら、月初に藤井君がコンピュータ将棋に勝って話題になってたじゃない。
藤井君のさし方は、コンピュータが4億手読んでても最善とは出てこないけど、6億手読むと最善って出てくる手だったらしくて。

まじで。すごすぎ。笑

ーでもさ、いかに藤井君が天才と言えど、6億通りのパターンを頭で実行できるとは思えなくない?

確かに。それは無理だ。

ーつまり、データに基づいてあらゆる可能性を計算して出てくる「適解」を超えた「最適解」を、”直感的”に見抜いたってことでしょう。
人間って面白いよね。

なんかさ、ディープラーニングとかAIとか、「機械が人間を超える」っていうテーマは結構前からあるじゃない。

ーうん。

そういう面もある一方で、逆にこういう相克するテクノロジーが、人間の可能性が新しく浮き彫りになるって言う感じがして面白いな。

ーそうだね。夢もある。

野球も今までよく知らないスポーツだったけど、戦略を読みながら観るの面白いかも。

ーそうだよ。ぜひ見てみてください。

早くこっちもMLB再開してほしいなあ。

ーカリフォルニアもコロナ大変なことになってるね。
気を付けて過ごしてください。

ありがとうございます。東京も大変だね。
お互いステイヘルシーで。

ーはい。ではまた。

じゃあね~

(…Facetime終了)

★参考文献★
『マネー・ボール』マイケル・ルイス(早川書房)
日本野球機構 シーズン成績(2019年/公式戦/パ・リーグ)https://npb.jp/bis/2019/stats/bat_c.html
Yahoo ニュース「コンピュータ将棋が6億手読むとはどういうことか?」https://news.yahoo.co.jp/byline/matsumotohirofumi/20200704-00186568/
https://www.nownovel.com/blog/narrative-examples-strong-narration/

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!嬉しいです☺︎