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タナトス

死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ
村上春樹 ノルウェーの森

何もかも上手くいかず、ありとあらゆることが悲劇にみえるほど生きることに疲れ、繁華街で朝まで飲んでいた。
帰路、突如闇が目の前に色濃く広がり、私の心は深淵の闇へ飲み込まれる。
闇は、光のみならず空気の有無を許さない。太陽のない宇宙のようで、私の息は苦しくなる。
私は恐怖し、限りなく大きな、魂の叫びとも言える声を出したが、無限に広がる闇の中で虚無に帰り、全ての感覚が機能しない中で、永遠の孤独だけがこだまするのを感じる。
孤独、無力、虚無、世界に存在するありとあらゆる闇が私の全てを押しつぶす。
汗が止まらず、口から泡を噴き出し、白目を剥きながら、声にならぬうめき声をあげ、意識が遠のいていく。
無限の闇に飲まれて、朦朧としていく意識の刹那で、美しい神を見た。
宇宙よりも暗い深淵の闇すら霞む美しい黒髪、全ての真理を得たような無機質で大きな三白眼、昼間の月のように白い肌、何もかもを数式で表せる無駄のない姿。
私は生きる意味を理解する。
神は私に手を差し伸べている。
一切の無駄がないその美しさに誘われ、私は手を出した。
福音が轟いた。

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