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文学的な何か

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ひとりでカラカサさしてゆく 江國香織

ひとりでカラカサさしてゆく 江國香織

都内のホテルで老人が三人、猟銃自殺をした。
これだけ聞くとショッキングな出来事だと決めつけてしまいがちだが、案外、当の本人たちは穏やかに心地よく命を終えた可能性があるのほうにも目を向けてみるのもいいかもしれないと、この作品は気づかせてくれる。

江國香織ワールドでは、このような死を決して事件やサスペンスとしては描かずに、遺された遺族たちの人生とも照らし合わせながら物語が進んでいく。そもそも人生に明

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キャベツ炒めに捧ぐ 井上荒野

キャベツ炒めに捧ぐ 井上荒野

50代、60代の人生の先輩女性たちの酸いも甘いも知り尽くしながらも、まだまだこれからも楽しく自由に生きていくという表れと、美味しさが所狭しと散りばめられた物語に、背伸びして読み進めた作品。

なんとも目を惹く表紙で、11の料理と食材と共に3人の人生を垣間見ていくのだけれど、一筋縄でいかないのが人生。
青葉家の食卓やパンとスープとネコ日和のようなドラマ化をしてほしい物語。

舞台は東京の私鉄沿線の、

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からくりからくさ  梨木香歩

からくりからくさ 梨木香歩

亡くなった祖母の古民家で、手仕事が好きな若い娘4人が「りかさん」を取り囲むように微笑ましく、慎ましく過ごす日々が描かれた作品。

形式上は寮で、孫の蓉子と美大生の2人と、鍼灸の勉強で日本に来たアメリカ人のマーガレットがひとつ屋根の下で暮らしている。
中近東のキリムという織物に熱中しており、サバサバとした性格と物言いの与希子に、織物が名産の島で生まれ育ち、自らも機織りをする大人びていて物静かな紀久。

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