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映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」を観た話。

私も今でこそ、出す記事は毎回100PVを超えるようになり、少しずつnoteに定着してきているという実感が湧いてきているが、誰が見ているでもない駄文を垂れ流しているころは辛かった。苦労して書いた小説が、ピクリとも伸びず、反響も来ず、ただただ執筆することで時間を浪費しているような気がして、しんどかった。

だから、スキやコメントがたったひとつ来るだけでも飛び上がるほど嬉しいし、それだけでこの時間が全部報われたような多幸感に包まれる。それだけ「誰かに見てもらえる」「誰かが聞いてくれる」ことは、自分に力を与えてくれるのだ。この作品もまた、そんな喜びを描く眩しい映画だった。



というわけで、映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」

舞台はとある架空の地方都市・小田。主人公は、男子高校生・チェリー(声:市川染五郎)と、女子高校生のスマイル(声・杉咲花)。チェリーは人と話すのが苦手で常時ヘッドホンを付けることで誰かから話しかけられないようにしている。スマイルはビーバーのような前歯がコンプレックスで、それを隠すために夏でもマスクを欠かさない。2人は、どこにでもあるようなごくごく普通の郊外型ショッピングモールで、ある騒ぎをきっかけに出会い、行動を共にするようになっていく。


チェリーは、大の俳句好き。だが、人前で話すのが苦手なことと、「俳句は文字の芸術」という考えを持っているので、基本的に読んで聞かせるようなことはしない。その代わり、(Twitterによく似ている)SNSで、思いついた俳句を投稿するのだが、それがまあ~誰にも読まれない。母親しか読んでいない。一方のスマイルはネット上で人気のライブ配信者で、「かわいい」をテーマに町中の可愛いものを見つける配信をいつもしている。なんとも対照的な二人。

しかし、スマイルと出会ったのち、チェリーが俳句好きだということを知ったスマイルはその俳句アカウントを発見し、大量のふぁぼを付ける(というか妹によって勝手に付けられた)。そこから、チェリーはスマイルのライブ配信を覗いたり、スマイルがチェリーの俳句にいいねを付けたり、ネットの上で2人は繋がりを深めていく。

この「誰のためでもなかった俳句」が「誰かのための俳句」になっていくところが、ラストシーンにまで繋がっていく物語の大きな軸になる。

一気にいろんなことが変わっていくドラマティックさはなくても、チェリーの表情や姿勢が少しずつ前へと向いていくという地道さがいい。人間そう簡単にガラッと性格が変わるわけでもない。でも、スマイルという「眩しい存在」によって心の中が確かに変わっていく。そのゆるやかな変化を観察するのが非常に楽しかった。


また、この舞台選びも実に巧妙である。見るまでは、なぜ大型ショッピングモールが舞台なのだろうという謎もあった。しかし、鑑賞し終わった後に「ショッピングモールという場所でなければできない話だったんだな」と納得がいった。田舎のコミュニティーの中心は、誰もが集まるスーパーや商業施設であることが多い。また、昔なにか別の建物が建っていたところが再開発されてモールになる、ということもある。これ以上言うと本編の大事なネタバレになるのだが、この舞台選びにはおみそれした。参った!という感じだ他。

あと、前半は点でバラバラだった登場人物たちが、チェリーとスマイルの繋がりをきっかけにどんどんストーリーに絡み始めるところは非常に気持ちよかった。人付き合いの苦手なチェリー主観で進んでいく前半は、結構じれったい時間があるので我慢してみてほしい。後半、話が進めば進むほど、この人物はここで話に絡んでくるのか!という驚きもあって世界観に引き込まれてしまうのだ。スルーしてしまうほどのなんてことない細かな要素が、いつの間にかストーリーの根幹に絡んでいる、なんてことも結構ザラなので、画面の隅までよく観察しながら鑑賞してほしい。


正直、私はこれまでアニメ映画はこれまであまり興味が無かった。数年に一度鑑賞するかぐらいの頻度でしか見ていなかった。

が、シン・エヴァンゲリオン劇場版を観る前に流れたこの作品の予告を観たとき、ぐっと引き込まれた。次はこの作品を見たい!と。ベタ塗りされたビビッドな青空、やけにリアルで本当にどこにでもありそうなショッピングモールの描写。実写ではなくアニメだからこそ出来るエモーショナル=エモい表現の数々が、鑑賞している私たちの心を静かに躍らせる。

あの頃の、エモーショナルな夏を追体験したいあなたには、ピッタリな作品だと思う。ぜひどうぞ。


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というわけで、今回は映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」のレビューでした。

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おしまい。




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