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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
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#大久保利通

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#54

12 神の行く末(1)

 公儀の直轄領だった長崎は、鳥羽伏見での敗戦を受けて奉行が退去していた。そのため、無政府状態だったところ薩摩、長州、肥前、土佐といった長崎にいた藩士たちがとりあえずの行政機能を担っていた。その状況の改善が朝廷に働きかけられ、九州鎮撫総督の沢宣嘉の参謀として聞多は長崎に赴任することになった。
 総督府や裁判所(県庁)を開庁し、行政機能を図ることになった。五箇条の御誓文といっ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#77

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#77

16廃藩置県(3) 東京では大隈が木戸に参議の就任を働きかけていた。なかなか就任しようとしていなかったが、西郷も参議にすると決定し受けたことから、木戸も参議に就任することになった。
 また木戸の提案で、制度取調掛というのを設けることになった。木戸や薩摩から兵を率いて東京に戻っていた西郷隆盛や大久保、肥前の江藤新平と大隈重信、佐々木高行、そして馨も入っていた。庶務掛として渋沢栄一と杉浦も参加していた

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#78

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#78

16廃藩置県(4)  馨はまた木戸に面会をするべく動いた。すると、江藤新平のもとに居るということがわかった。面倒なところだと思ったが、時間も惜しいので、江藤の家に行き木戸に話をした。すると帰宅した木戸から馨の家に使いが来て、7月9日木戸の家で薩摩方と会議をするので来るようにと告げられた。もちろん行きますと使いに伝言を頼んだ。
 7月9日は物凄い暴風雨が東京を襲っていた。それでも夕刻、木戸の屋敷に西

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#81

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#81

17 遣欧使節団と留守政府(2)  

 一方大久保は馨から話を聞いて、早速岩倉に使節団への参加を希望する文を送っていた。洋行できる期待が大久保の中にあった。
 馨は、一度は理解不足で邪魔な木戸と大久保を洋行させて、考え方を変えさせるのはいいことだと思った。
 しかし木戸と大久保の不在の大きさを前に、馨の意見が変転してしまっていた。大久保に使節団への参加を取りやめてほしいと言ったこともあった。さす

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#82

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#82

17 遣欧使節団と留守政府(3) 

 馨は結局大隈のところに顔を出すことなく、渋沢とともに大久保の家に向かった。二人が大久保の家に着き、案内の女中に手土産を渡しているところに大隈も到着した。
「馨と渋沢は一緒だったのか」
「すまん、あれから大隈のところに顔を出す暇がなかったんじゃ。まぁいいじゃないか。一緒に案内してもらえば」
 大隈は馨がいつもと変わらない様子だったので安心した。
 夕食会は一応

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#87

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#87

18 秩禄公債(4)

 アメリカに送った吉田から、公債発行についての進捗の報告も送られてくるようになった。
「これは一体。どうなっちょる」
「井上さん、森さんがどうしてこのようなことを」
「良くはわからん。ただ森は俸禄を給金のようなものでなく、永代受給権的な財産だと思うちょる」
「なるほど、勤労の対価と思っておる吾輩たちとは、違うということであるか」
「とにかくわしは森の言うことは放っておけと言

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#88

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#88

18 秩禄公債(5)

「伊藤くん、呼び出してすまない」
「聞多のことですね。辞職を願い出ているのですか」
「そうだ、止めて欲しい」
「先日、本人から聞きました。公債発行や約定書の事、条約改正の委任状の件もあわせてなんとかします。大久保さんの助けも当然必要ですが」
「それは当然だ」
「大隈さんにも相談する必要があります。それでは失礼します」
簡単に要件だけ話をして、伊藤は出ていった。
 業務の終了

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#109

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#109

20 辞職とビジネスと政変と(7)

 東京に戻った馨を待ち構えたかのように、伊藤博文が押しかけていた。
「無事の帰国なによりじゃ」
「ずいぶんおらん間に変わってしもうた」
「そうじゃな」
「西郷さんらの朝鮮への使節の件どう思うんじゃ」
「わしには関係ないじゃろ」
「聞多、大事なことじゃ。戦にでもなればビジネスどころじゃないぞ」
 馨は博文のほうを見て、仕方がないかとでも言うように話しだした。

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#110

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#110

20 辞職とビジネスと政変と(8)

 だが、閣議は思ったような進展をしなかった。西郷隆盛の朝鮮使節派遣が決定されたのだ。閣議決定を三条実美が天皇に上奏するだけになった。
 すると決定を受けて、岩倉、大久保、木戸の三人が辞表を出す。三条実美は派遣反対、賛成の板挟みに悩み倒れてしまった。太政大臣の職責を三条実美はできなくなり、太政大臣代理に岩倉具視が就いた。
 次の手を打ったのは、大久保だった。宮内

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#117

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#117

21 大阪会議(7)

 大久保側からも、板垣側からも大久保と木戸と板垣を大阪に迎えて、立憲政体の道筋をつけることに決している。特に大久保はこれをきっかけに、木戸を参議に戻ってもらうことにかけているようだった。それを合わせて、木戸に向けて早く決断するように文を送った。やっと、大阪にくる気になったと連絡がついたのはもう少しあとのことだった。
馨は木戸と顔を合わせるとすかさず言った。
「木戸さん、本当

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#119

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#119

22 江華島事件(2)

 大久保利通が珍しく、落ち着きをなくしていた。その場には伊藤博文もよばれていた。
「全く、台湾が片付いたと思ったら、今度は朝鮮だ。あっちもこっちも勝手なことを」
「しかし、考えてみると、朝鮮に対して交渉をする良い機会かもしれません」
「だが、朝鮮となると血の気が多くなるものばかりではないか。戦だけは避けねばならん。台湾以上に清の動きも気になる」
「確かに、それにまた頭の痛

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#122

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#122

22 江華島事件(5)

 翌日、博文は出仕すると工部省にやってきた山縣と合流し、内務省の大久保のもとに行った。
「大久保さん、山縣と二人で井上さんに会ってきました。朝鮮使節の件、承諾をしてくれました。それで、井上さんの任官はどうなりますか」
「あぁ、元老院議官でどうですか」
「わかりました。大丈夫です。ただ、条件が」
「条件ですか?」
「はい。自分と木戸さんに、三年間の欧米での留学を認めてほしい

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#137

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#137

24 維新の終わり(8)

 イギリスのロンドンに戻った馨たちは、またそれぞれの勉学を続けて、いろいろな人との交流を図るということの日常に帰っていった。
 いつもの日課となっていたロンドン公使館への散歩で、馨は日本で起きた重大な事件を聞いた。
「井上さん、大変です。こちらへ」
上野公使が顔を見るなり、公使室へ招き入れた。
「薩摩の連中が動きました。武装蜂起したようです」
「西郷さんはどうなった」

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#138

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#138

24 維新の終わり(9)

 もう一つの主戦場は熊本の北植木の田原坂だった。乃木希典が連隊旗を奪われたこの戦いでは、当初薩摩軍が有利に進めていた。
 陸軍の方は戦況の把握に失敗し、いくつかの作戦の失敗もしていた。陸軍の銃器を頼みにした火力による戦いに対して、薩摩は抜刀隊による白刃突撃を試みていた。
 これには政府側も対抗して、抜刀隊を組織する。主力は鹿児島出身の巡査だった。主力の第一旅団も鹿児島出

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