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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
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2022年10月の記事一覧

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#135

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#135

24 維新の終わり(6)

 パーティの夜、武子は青い花を散りばめた、オーガンジーの生地を重ねたドレスをまとっていた。末子は可愛らしさをあわせて表現するかのような、桜色のドレスがとても似合っていた。二人をながめた馨は、満足だった。ドレスの美しさに負けない、武子の凛とした姿に見とれていた。
「馬車も来たことだし、行くかの」
 馨は、二人に声をかけた。馬車に乗る時に武子の手をとると、パリで買ったダイヤ

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#136

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#136

24 維新の終わり(7)

 約束通り、馨は公使館へ行った。青木は公使室に茶を運ばせると、しばらく誰も近づけないように書記官たちに命じていた。
「井上さん、お約束の品物です。こちらが武子さん用で、このリボンのほうが末ちゃん用です」
「お代はいかほどかの」
「お代は結構です。これをお読みいただいて、お話をお伺いできれば」
「それは」
「木戸さんからの文です。薩摩がきな臭くなってきたと」
「大西郷が、

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#137

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#137

24 維新の終わり(8)

 イギリスのロンドンに戻った馨たちは、またそれぞれの勉学を続けて、いろいろな人との交流を図るということの日常に帰っていった。
 いつもの日課となっていたロンドン公使館への散歩で、馨は日本で起きた重大な事件を聞いた。
「井上さん、大変です。こちらへ」
上野公使が顔を見るなり、公使室へ招き入れた。
「薩摩の連中が動きました。武装蜂起したようです」
「西郷さんはどうなった」

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#138

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#138

24 維新の終わり(9)

 もう一つの主戦場は熊本の北植木の田原坂だった。乃木希典が連隊旗を奪われたこの戦いでは、当初薩摩軍が有利に進めていた。
 陸軍の方は戦況の把握に失敗し、いくつかの作戦の失敗もしていた。陸軍の銃器を頼みにした火力による戦いに対して、薩摩は抜刀隊による白刃突撃を試みていた。
 これには政府側も対抗して、抜刀隊を組織する。主力は鹿児島出身の巡査だった。主力の第一旅団も鹿児島出

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#139

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#139

24 維新の終わり(10)

 次の朝、馨は博文に文を書いた。木戸の死を知ったこと、三年の遊学といったが復命あれば帰国する準備でいること、共に力を合わせてやっていこうと記した。そして、いつでも帰国できるよう、準備をしようと心に決めた。
 馨は、この平安がもう終わりを告げているのに、残念な気持ちがない事に気がついた。これからの時間は緩んだ頭を締め直し、こちらでやり残したことはなくすよう努めようと考え

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#140

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#140

24 維新の終わり(11)

 またクリスマスシーズンがやってきた。このころ西郷の起こした反乱が終結したことを知った。
 年が明けると馨たちは欧州の大陸の旅にでかけた。パリから地中海のニースの方まで行き、ベルリンで無事結婚が成立した青木にもあった。青木とは西郷の起こした反乱の終結を受けて、事後のことなども話し合った。ほかにもロシアとトルコの戦争について、国際社会に対する影響も情報を交換した。
 こ

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#141

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#141

24 維新の終わり(12)

「大変です。伊藤さん。大久保さんが、大久保さんが……」
 工部省に出仕していた伊藤博文に、内務省の秘書官が飛び込んできた。
「大久保さんが、賊に襲われました」
「なんじゃと。それで大久保さんは」
「即死だったということです」
「この話は、岩倉公や三条公にもお伝えしているのか」
「はい、ご連絡しました」
「それで大久保さんは今どこに」
「ご自宅に戻られました。西郷従道さ

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【小説】奔波の先に ライナーノート

【小説】奔波の先に ライナーノート

1 「明治維新」編終了について

 木戸孝允が、西郷隆盛が亡くなり、大久保利通が殺された。そんな一つの時代の終わりの出来事と士族の反乱の西南戦争の終結で、明治維新期を終わりとするという説があるので、それに従うことにしました。
 井上馨との関係でいうと、西郷は廃藩置県で終わってしまった人なのかと思ったり。大久保とは、うまく組めたら、ウィンウィンの関係になれたのではとか考えました。共に目指すものは同じ

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