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東京藝大での2年間 〜仕事と個人活動と研究の三角形〜

東京藝術大学の大学院・国際芸術創造研究科に研究生として所属して間もなく丸2年間が経とうとしています。

学術誌へ掲載予定の論文の執筆も佳境に入ってきました。

仕事と並行して大学で研究をおこなうのは予想以上に大変なものでした。
けれどもその苦労ゆえの貴重な経験も数多く積むことができ、非常に密度の濃い時間を過ごせたことを実感しています。

この記事では東京藝術大学院での2年間で得られた成果などを振り返っていきたいと思います。

自分自身の思考の整理をする目的で執筆していますが、
「仕事と並行した研究」に取り組むことを検討している方などに何某かのお役に立てる内容になると嬉しいです。

東京藝術大学・国際芸術創造研究科に所属した頃の記事はこちらとなります)

■「仕事+個人活動の実践を、研究で土壌へ突き刺していく」感覚


東京藝大で研究を始める前からも、仕事と個人的な活動、それぞれで意義ある実践に数多く取り組めてきました。
いずれの活動も充実していましたが、
その一方で、どことなく宙ぶらりんになっている印象を持っていたのも事実です。

仕事で取り組むことと、個人活動で取り組むこと、
それぞれが自分の感覚としてはつながっているのですが、
しっかりと結びつけられてはいないような感覚。

そして、
やり終えると流れ去ってしまうような感覚です。

そうしたモヤモヤのようなものが、この2年間は明らかに変わりました。
東京藝大というフレームの中で触れるもの、見聞きするものから良い刺激をもらえ、
さらには、自分自身の研究といかに結びつけていくかを日々意識することが必要となったからです。

仕事と個人活動の実践が結びつくとともに、
2つの取り組みが研究により三角形となり、
土壌にしっかりと突き刺さった

そんな感覚です。

研究にのみ打ち込む大学院生、
仕事や個人活動で実践にのみ打ち込む社会人、
いずれでもなかなか得にくい感覚であり、
両方を並行して行うことで初めて得られた感覚ではないかと考えています。

特に私が師事した教授は「理論と実践の往還」を重視していたため、教授はもちろん、学生さんたちからも大いに影響を受け、参考になる意見やアイディアをもらうことができました。

■東京藝大の2年間で得られたこと

上述したことが私にとって最も大きい価値だと感じていますが、もちろん、それだけではありません。
具体的にどのようなことを得られたのか、箇条書き的に整理していきたいと思います。

●アート界隈の人たちの感覚への理解

まず挙げるべきは
アート界隈にいる方々が何を感じ、どういう基準を重視して行動しているか
への理解が深まったことです。

一般的な知識のようなものは、必ずしも大学に属さなくても学ぶことはできます。
一方で、その界隈特有の価値観や肌感覚とでも言うべきものは、浸かってみないことには理解することは極めて難しいと思います。
もちろん、足繁くギャラリーに足を運んだりすることで得られる可能性はあると思いますが、一番効果的なのはアート界隈のネットワークのハブとなっている大学に属することだと改めて実感しました。

私が研究したいテーマにより適した大学や学部、ゼミなどは他にもあったのかもしれませんが、東京藝術大学を選んだ理由の一つが、上記のハブ機能が非常に強固だからでした。
暗黙知のようなものは本流に踏み込んで初めて触れられるものです。
その選択は正しかったと感じています。

もちろん、一言に「アート界」と言っても多種多様な方々がいます。
私が触れる機会を得たのは、あくまでそのごく一部の方たちです。
しかも所詮は数年間です。私の理解などとても浅いものであることも重々承知しています。

それでも、特に純度の高い方々と触れ合える機会を得たことは極めて重要で価値の高いことだったと感じています。

●大学の外にいるアート界隈の方々とのご縁

大学関係の人たちだけでなく、
アートに関わるさまざまな人たちと縁が広がっていく2年間でもありました。

これもやはり、爪先だけでもアートの世界に踏み入れさせてもらっている状態だったからこそでしょう。

●新たなる実践の機会

東京藝大・国際芸術創造研究科に所属する院生の人と開催した「アートバー」を東京の代々木駅と水道橋駅において、二度に開催することができました。

Podcast番組「アートtoマンガ」を以前からの友人であった川口さんから誘われて始めることとなりました。


見るからにアートと結びつく活動だけではありません。
東京藝大に所属してなければ、おそらく「アート文脈」とはとらえなかったであろう取り組みが「アートプロジェクト」として研究につながることとなりました。

その際たるものが、川崎市・高津区で取り組んだ「まちのマンガ企画室」です。
元々は全くアートとは無縁な活動と考えていたのですが、ゼミで話をしてみたところ、教授が「それはアートプロジェクトだ」と言ってくださり、研究としても深めていくこととなりました。

上述した「仕事と個人的活動と研究の三角形」の具体例として結実させることができたことは、非常に恵まれたことだと感じています。

●アートにまつわる知識

もちろん、アートにまつわる一般的な知識も得られました。
大学で学んでいたわりに、「知識」がずいぶん後のほうに出てくるんだな、
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
でも、知識を得ることを第一とするならば、私はわざわざ大学に所属する選択はしませんでした。

忙しい社会人が知識を得るためだけに大学に所属するのは得策ではない
と思います。
(もちろん、学びに対する価値観やタイプにもよるとは思いますが)

実際、私が所属していた研究室は、いわゆる美術史などを学ぶところではありませんから、この2年間で美術に対する体系だった知識を十分に学んだとはとても言えません。

それでも、間違いなくアートにまつわる知識は格段に深まったと感じています。

アートに触れた時、ポートランドや尾道、直島・豊島で過ごした時の解像度や批評的な視線などは、広義の知識があってこそ持ち得たものだと思っています。


●「東京藝大」という「コンテンツ」の理解

先にお断りしておくと、「コンテンツ」と括られることをアート界隈の方々は嫌う傾向が強いです。
(そういう価値観もまた、所属したからこそより理解が深まりました)

それでもやはり私は「東京藝大」という「コンテンツ」の魅力はもっと発信されていくべきだと思っています。

漫画の『ブルーピリオド』は傑作なのに、実写映画が薄っぺらく感じられるのは「コンテンツ」としての「東京藝術大学」を深堀りできていないからだと思っています。

「千住藝大おばけキャンパス」というすばらしい企画は
「東京藝大」という「コンテンツ」という考えから離れることを目指しているからこその限界と可能性が実に面白く、次年度以降にどうなっていくのかがとても楽しみです。

藝大の上野キャンパスから少し離れたところにある「東京藝術大学芸術未来研究場 藝大部屋」の持つとてつもないポテンシャルは「コンテンツ」という視点を盛り込めば格段に広がると思います。

…と、あえて「コンテンツ」「コンテンツ」と並べてみました。
そういう類いの言葉を出すことで、場の空気が冷える体験はこの2年間で何度も味わってきました。
それでも、挫けることなく「東京藝大」という「コンテンツ」の魅力を語り続けることが、
私のような爪先だけを突っ込ませてもらった者の存在意義なのではないか、
と思ったりもしているのです。


以上、ざざざっと挙げてみました。
最後は余計なことを書いてしまったかな…という思いもあったりはしますが、上にも書いた通り、あくまで自分の思考整理を第一目的に記したものです。
大目に見てもらえると幸いです。

この2年間、たくさんのことを東京藝術大学から得られました。
抜けていることもたくさんあるんじゃないかと思います。
まずは公開してしまい、思い出したら随時、付け加えていくこととします。

■これからが研究の本番

2年前、研究期間がスタートした頃の記事に記した大望は
「芸術と漫画に架け橋を作っていく」ということでした。

2年間のうちに達成できたか? と問われると残念ながらできていません。

表現という点では近しいのに、高い高い壁と深い深い断絶があるのにはしっかりと訳があり、そうそう簡単に橋をかけられるようなものではありませんでした。

もしも橋を架けても一瞬で急流に流されていく、
その光景をまざまざと想像できるようになっただけでも前進、
と思うこととします。


最後に、上の図をもう一度、掲載します。

これまで宙ぶらりんに感じていた仕事と個人活動の実践が、
研究により土壌に突き刺さった感触を抱けていますが、
まさにこの図の通り、土に根ははれていません。

ここからいかに根を深く深く伸ばしていき、
幹を太く太くして、
大いに葉を茂らせ、花を開かせていくか

日々の活動が重要になってくると思っています。

東京藝大での2年間の研究期間はまもなく終了します。

しかし、これで終わりではありません。
むしろ、研究期間を終えたこれからが本番だと気を引き締めていきます。


>蛇足なような追記

「芸術と漫画に架け橋を作っていく」

研究の2年間を経たことで、
達成どころか、むしろ一生かけでも実現できないんじゃないか??
と思うようになっていたりもします。

一方で
「漫画こそが芸術本流の最先端なのではないか」
という仮説も抱いていたりします。

それについて語るにはあまりに時間が足りません。
またいつかどこかで・・・

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