本屋は「テーマパーク」になる:出版不況でも児童書だけは伸びてる理由
減少が続く出版物売上の中で、2006年と2018年を比べ、唯一プラスの値を示しているのが、児童書ジャンルです。
その要因を考えていく先には、
これから本屋がどうあるべきか
出版物がどうあるべきか
のヒントが詰まっているように感じます。
■唯一、売上が伸びている児童書の市場
2006年に約900億円の売上だったのに対し、2018年は約1,010億円です。
出版物の総売上が2018年は約1兆5,000億円なので、児童書の割合は大きくありませんが、
雑誌が2006年の約8,500億円から2018年には約4,500億円と、半減近くまで落ち込んでいることなどと合わせて考えると、目を見張ることだと思います。
(上記数値は「出版物の分類別売上推移をグラフ化してみる」を参考にさせてもらっています)
要因としては、
「おしりたんてい」や、ヨシタケシンスケさん著書、「ざんねんないきもの事典」など、幅広い層に読まれる本のヒットが挙げられています。
もちろん、そうした影響もあると思いますが、
私は、大きな要因の一つに「本屋が身近でなくなった」ことがあると考えています。
「本」というメディアの歴史を振り返りつつ、説明させてもらいます。
■「いつでも、どこでも、大量複製」がメディアパワーの源泉
グーテンベルクの活版印刷技術の勃興以来、本の歴史は「同内容、同質、同時」を極めていくことで発展してきました。
「いつでも、どこでも、大量複製」がメディアパワーの源泉として機能してきたのです。
「いつでも、どこでも、大量複製」…
いずれも、デジタルが得意とすることです。
ウェブの発展により、紙の本がメディアとして弱くなっていくのは必然の流れです。
本の売上が下がること、書店が減っていくことは残念ながら避けられません。
■本がコモディティ商品だった時代は終わった
「書店が生活環境の一部に存在する」という日本の恵まれた状態は
一昔前の話になりました。
本屋は身近な存在ではなくなったのです。
とりわけ、
ネット書店を使いこなさない子どもや高齢者にとって、
「本」は、もはやコモディティ商品ではなくなりました。
■身近でなくなったから、「贈り物」としての価値が向上
本屋が身近でなくなり、
本がコモディティ商品でなくなったことで、
本は、贈り物としての価値が向上していると思います。
スーパーマーケットで買えるものを贈り物にはしにくいように、
本屋が身近だったころは、本は贈り物に適してなかったのです。
贈り物としての価値が向上しているということは、
逆に言えば、
いかに本(特に新刊本)が手に取りにくくなってきているか
を表しているのだと思います。
特に、
贈り手:高齢者
受け取り手:子ども
と、いずれもネット書店を使いこなさない(=本が身近ではない)割合が高い層による授受が成立している「児童書」というジャンルで、顕著になっているのだと思います。
つまり、出版不況でも「児童書」だけは伸びてる理由は
皮肉にも、
本屋が身近でなくなったから
なのではないでしょうか。
■本で「ここでしか、この時でしか」を作り出さないと、明るい未来はない
このことは、本屋が今後どうあるべきかを示唆しているように感じます。
最近、個性的な本屋が増えてはいますが、
大半の書店は、相変わらず「生活の一部にある、身近な存在」としての本屋になっています。
どこで買っても同じものを、似たように並べ、
当然、価格は一緒、
これでは、衰退しないほうが不思議なくらいです。
これまで、書店は「スーパーマーケット」でした。
日常に必要なものを買うために行く場所です。
情報を入手する場所が限られていた時代は、それでよかったのでしょう。
これから書店が目指すべきは、「テーマパーク」だと思います。
そこに行かないと得られないものがあり、
わざわざ足を運ぶ必要がある
そういう場所になる必要があるのではないでしょうか。
「ここでしか、この時でしか」がある本屋です。
「そんなこと分かっとるわ。だから、トークショーをやったり展示会をしたりしてるんだ」
と思う方もいらっしゃると思います。
そうしたお取り組みも、すごく大事なことと思います。
しかし、関連イベントは、あくまで「サブ」です。
やはり、「主力商品」で「ここでしか、この時でしか」を作り出さないと、書店の明るい未来は待っていないと思います。
本屋の主力商品、
それはもちろん、「本」です。
>> 本で「ここでしか、この時でしか」を作り出す方法については、
2016年に書いたブログ「サードウェーブ・パブリッシング」という希望 を読んでもらえたらと思います。
紙の本が「大量生産・大量消費」「メディア」という呪縛から解放されつつあることをポジティブにとらえると、
むしろ、本には大いなる可能性が眠っていると思います。
児童書のコーナーには、
意外にも本屋の未来へのヒントがいっぱい詰まっているのかもしれません。
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