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#プロレス

猪木の粋な息づかい:アントニオ猪木「猪木詩集『馬鹿になれ』」

猪木の粋な息づかい:アントニオ猪木「猪木詩集『馬鹿になれ』」

「そのまんま」の猪木

 昨年10月1日、アントニオ猪木の訃報に接した際、「あの猪木さんでも、最期にはやっぱり天国へ行ってまうんだ」という風に感じた。一度生で目にしたことがあるにも関わらず、どこかマンガのキャラクターのような、我々一般人とは明確に一線を画す存在のように感じていたのだ。あの「猪木」に「死」なんて似合わない。心のどこかでそんな風に思ってしまっていた。

 私が大学生だった10年前、西武

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猪木が北半球と苦闘した熱い1年:柳澤健『完本 1976年のアントニオ猪木』

猪木が北半球と苦闘した熱い1年:柳澤健『完本 1976年のアントニオ猪木』

 アントニオ猪木のタオルと同じく真っ赤な表紙と、文庫にして500ページ近い束の厚さ。正直なところ、「プロレスは詳しくないが、猪木はなんとなく好き」という知識の自分が、この迫力ある本を読み通せるか自信が無かった。だが、数多の当事者の証言からパキスタンの新聞記事に至るまで圧倒的な取材量で、あっという間に当時のプロレス・格闘技の世界に引き込まれた。
 猪木は1976年にウィリエム・ルスカ(オランダ)、モ

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虚と実の狭間で戦うレスラーたちのサウダージ――樋口毅宏『太陽がいっぱい』

虚と実の狭間で戦うレスラーたちのサウダージ――樋口毅宏『太陽がいっぱい』



(初出:旧ブログ2017/10/15)

 プロレスというジャンルが有史以来対峙し続けているテーマがある。アングル(抗争などの筋書き)、ブック(試合進行の台本)の存在だ。確かにアメリカの大手プロレス団体WWEがブックの存在を認めたことはある。だがあれほどの肉体のショーが全て事前に打ち合わせた通りに運んでいるかといえぱ、違うだろう。レスラーの背中に他の競技のアスリートとは異なるサウダージを感じる

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教養としてのプロレス

教養としてのプロレス



(初出:旧ブログ2016/11/05)

 プロレスに関してはほとんど門外漢で、自分とプロレスとの関わりといえば久米川でアントニオ猪木を見たこと(選挙応援)がある程度だが、不思議と仲のいい友達や尊敬する作家にプロレス好きが多い。プロレスの知識や歴史や観戦術を教えてくれる本かと思ったらちょっと違った。タイトルを自分の感想に即して言い換えるなら、『哲学・現代思想としてのプロレス的思考』という感じか

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